感動、あこがれ、そして未来への決心
★★★★☆
第二次大戦の敗北により、我が国の航空宇宙分野における研究開発は重大な空白を余儀なくされました。かつて名機ゼロファイターを送り出した日本の航空技術者たちは、すすむべき方向を失って茫然自失の有様で、その様子は、国としてのアイデンティティを喪失した日本自身の姿でもあったのです。
そうした中、戦中に「隼」を手がけた新進気鋭の航空設計者、東京大学の糸川教授は、ひとたびは音響学に活路を見出すものの、幼少期からの大空と宇宙への憧憬もだしがたく、「ロケット旅客機」構想の名の下に、ついに宇宙開発への路を歩み始めます。そんな彼を支えたのは、富士精密をはじめとする新生日本の技術者陣と、平和的技術立国の理想に燃える東大生産技術研究所の若手研究者グループでした。
たび重なるトラブルとアクシデントをものとせず、彼らの夢はたった23センチの「ペンシルロケット」という姿で世に姿を現します。そして、「ペンシル300」や「ベビー」を経て名機「カッパ」が生み出され、日本はついに人工衛星を軌道投入する技術を保有するに至ったのでした。
糸川教授はフォン・ブラウンと同年のお生まれだそうですが、フォン・ブラウンと同様、糸川教授には宇宙を目指す熱い想いと、そして重なるトラブルに決してヘタレない強い心がありました。著者は糸川教授の独創的思考の背景を「感動からあこがれへ、そして未来への決心へ」という言葉で表現していますが、滋味掬すべきものがあるように思います。