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アフター・レイン

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: 彩流社
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【セブン-イレブンで24時間受取りOK・送料0円!】 著者/訳者名:ウィリアム・トレヴァー/著 安藤啓子/訳 神谷明美/訳 佐治小枝子/訳 鈴木邦子/訳 出版社名:彩流社 発行年月:2009年01月 関連キーワード:アフタ- レイン あふた- れいん、 サイリユウシヤ サイリユウシヤ 2900 さいりゆうしや さいりゆうしや 2900、 サイリユウシヤ サイリユウシヤ 2900 さいりゆうしや さいりゆうしや 2900 アイルランドが生んだ現代最高の短編作家、珠玉の12編。行間ににじむ余韻で登場人物の意識の動きを描き切る-トレヴァー独特の心理描写が冴える。
哀しみのあとに訪れる静けさ ★★★★☆
 
  「彼の小説の特徴は、無駄のない的確でみずみずしい描写と、
   設定された人物像の揺らぎない精密さ、
   ナイフのように鋭くはあるけれど同時に不思議な優しさを含んだ小説的視線にある。」
                      (村上春樹 編訳『バースデイ・ストーリーズ』より)

 アイルランドに特有の、陰鬱で雨の多い気候を舞台にした作品をたくさん発表しているトレヴァーは、長篇も書いている作家ですが、特に短篇小説に対する評価が絶大な作家のようです。日本でも、『聖母の贈り物』と『密会』というふたつの短篇集が翻訳されていますが、そのなかのどの一篇をとっても、うえの村上氏が指摘したトレヴァーの特徴を読み取れると思います。

 すでに八十歳を過ぎた高齢の作家ですし、いままでに発表した本も膨大な数にのぼりますが、充分に距離をとった人物の描きかた、最小限の言葉や動作で心理を表現する技巧、よく練られた構成の見事さ、これらがどの作品にもひとしなみに見て取れる安定性がこの作家には備わっています。
 
 冒頭に配された「ピアノ調律師の妻たち」でも、主人公の男の前妻、後妻の書き分けや、妻が新しくなることで盲目の主人公の生活がじわじわと、しかし決定的に変化していくさまは、哀しくもありコミカルでもあります。

 ひとり息子に手痛い仕打ちを受けた仲の良い老夫婦が、雨上がりの庭に出て、その事実と痛みを静かに受け入れる描写が美しい「ティモシーの誕生日」。
 
 表題作「アフター・レイン」の最後、失恋した主人公の女性に、これもある決定的な変化が訪れます。はっきりと明言されているわけではないので丁寧に読まないと分かりづらいのですが、その〈変化〉を包みこみ祝福するような雨上がりの静けさがなんとも心地よい作品です。

 派手で作為的なフィクションに興味はないが、小説を読む愉しみには浸ってみたい、という人に特にお勧めします。
〈雨〉の洗礼 ★★★★★
 表題作「アフター・レイン」について書こう。
 変なたとえを書こう。私はひどく、目が悪い。眼鏡を取り、ものを見る。ぼやける。あくびをする。目に涙がたまる。それまでぼやけていたものたちが、はっきりと、美しく見える。ほんの、一瞬である。
 このたとえとは、ずれてしまうけれど、この作品の魅力は、この現象と少し似ている。
 雨が降る。外だけではない。自分の心の中に。人生という道の途上に。やがて、雨あがる。束の間、晴天がのぞく。このときなのだ。世界が、美しく輝くのは。それまで見えなかったものたちが、飛び出してくる。
 作品中では、キリスト教の影響を強く受けている。雨はもとをただせば、水だ。水は川になる。その昔は、川の水を用いて、洗礼を授けたそうだ。脱線するが、キリスト教における、永遠の命をもたらす水とは、涙ではないだろうか。涙は、人をリセットする。その涙もまた、水だ。つまり、洗礼に用いる水とは、涙のメタファーではないのか。
 雨の洗礼を浴びたヒロインは、人生における新たな道を踏み出すだろう。
 ほかの作品についても、少しふれておこう。
 「ギルバートの母」。行動障害を抱えた青年とその母との物語。他人事としては読めなかった。
 「失われた地」。自分が体験した非現実的な、しかし、確実な現実、その話を誰にも信じてもらえなかった少年と、その家族の物語。科学をはみ出していくもの、論理をはみ出していくものは、やはり、あるのだ。そうして、そういうものを受け入れられるかどうか、それが、人としての大きさを示すのではないだろうか。そんなことを考えた。
 「一日」。夢と現実。境界線は、どこにあるのか? 夢と現実とは、陸続きだ。トレヴァー氏に、そう言われているような感覚を覚えた作品だ。
 附記。ドストエフスキー「虐げられた人々」もまた、雨が印象的に登場する素敵な作品である。