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なぎの葉考・少女 野口冨士男短篇集 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,575
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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映像にして見てみたい ★★★★★
純文学私小説を読むのは、ほとんど初めてのこと。以前川崎長太郎さんのものを手にして読み始めて、ふいっとやめてしまったから、およそ縁のない世界なんだと思い込んでいた。もっぱら読書といえばルポ物が中心で、「新潮45」お得意の事件物などばかり、殺伐とした人間風景をピープ・ショウばりにのぞき見るのが好きで、それで過ごして来たのが、最近どうもそれだけでは隙間風のわびしさが身に沁みる。ちょっと気取ってこれを取り寄せてみた。全9編が輯載されているが、著者にかかわる人々のしがらみ、まつわりつく人間生態のきめ細かな観察と現在のじぶんの存在位置との天秤にかけるような語り口は読んでいて、事件物をしのぐ面白さであった。これらの一篇一篇をだれか映像として見せてくれはしないだろうか。そんなことを強く感じながら読み終えた。もう昭和ははるかに遠く、こうした人々を演じて見せてくれるだけの役者がいないことの無念さが身にしみる読書体験であった。
こ、こわい… ★★★★★
私は野口冨士男が怖い。野口冨士男は下戸なのである。生後間もなく離婚した両親との愛憎、私小説作家のご多分にもれず極度の貧困生活、父の入水、とても私などは素面でやり過ごすことはできそうにない。『耳の中の風の声』は必読である。読後にタイトルの意味を知ると怖くて夜中にトイレに行けそうにない。
これを読んで胸がそわそわした人は図書館や古書店で自伝長編『かくてありけり』(講談社文芸文庫‐絶版 読売文学賞[小説部門]受賞)を見つけて読んでみてください。私の中の野口冨士男はこれに尽きてしまう。いかにも吉行淳之介が好きそうな「なぎの葉考」とか、正直他の短編はどうでもいいかな…と思うほど素晴らしいので。