多才で後世に多くの影響を残したモリス
★★★★☆
もっと知りたいシリーズにウィリアム・モリスの作品とその生涯を取り上げてあり、興味をもってじっくりと読了しました。筆者の藤田治彦氏は環境芸術学を専門とする研究者で、大阪大学大学院文学研究科教授、学術博士です。
モリスは多方面で様々な素晴らしい業績を残した人です。父の遺産を継いだ実業家であり、デザイナーであり、画家であり、詩人であり、社会主義活動家であり、環境保護論者でもありました。21世紀にも繋がる考えの持ち主でエコロジーでもあり、自然主義でもあり、貧しい人々の幸福を考える福祉国家的な考えもまた持ち合わせた知の巨人でありました。
本書では、特に装飾家としてのモリスに焦点が当てられています。28ページあるように精神的には極めて中世的な家を建てて住み、デザイナーのモリスとしては美しく心地よい空間を作り出すために、ステンドグラスや様々な文様をもつ壁紙を世に出しました。本書でもその部分にかなりの誌面を割いて紹介しています。壁紙のデザインの美しさは現代でも通用するほどでした。
あらゆるジャンルに偉大な功績を残したせいか、62歳という早い旅立ちを迎えたわけですが、その足跡は、今の時代に再び辿る必要がある先駆的なものだというのを感じました。
内容です。若きモリスとアーツ&クラフツ前史―良き仲間たちとの出会い、生活に美と創造の喜びを―商会設立から改組まで、理想の社会をめざして―環境保護運動への展開と社会主義、十人分を生きた晩年―アーツ&クラフツとケルムスコット・プレス、アーツ&クラフツ運動の広がり―ロンドン発の穏やかな世界革命とその理念