フリードリヒを追った旅行記
★★★★☆
者がC.D.フリードリヒの足跡を求めてヨーロッパを旅行した、その旅行記。
とかくフリードリヒというと美術史学の研究書になるか、ロマン主義を扱った芸術論になるか、そうでなければ政治的色彩の強い何かになるかなので、こういった旅行記が出るということ自体、日本におけるフリードリヒ研究の広がりを感じる。別のもっと有名な画家でもこういった旅行記はあり、最近(と言っても2・3年前だったと思うが)だと『フェルメール全点踏破の旅』なんて新書があって、けっこうおもしろかった。しかし、ことフリードリヒの場合、ドレスデンとコペンハーゲンという都会もある一方で、彼の縁の土地は西ポンメルンのド田舎に集中しているため、旅行記を出すにもけっこう大変だったんじゃないだろうか。
中身は普通の旅行記ではある。ただし、けっこうしっかりフリードリヒの来歴を説明してあって、通が行きそうな場所を抑えて訪れているので、おもしろく読める。むしろ現地のグライフスヴァルトのドイツ人が、けっこうしっかり「フリードリヒの生地」という観光地をやっていて、意外と無関心じゃないんだと思わせられた。フリードリヒの研究史を振り返るに、いつの間にか地元のスター扱いにになっているのはなんとも苦笑してしまう。生家以外にも、当時使われていた蝋燭(フリードリヒの父親が蝋燭製造業だったので)なんかが売り物になっていたりして、興味深い。
自分もミーハーなので、こういう紹介をされると「俺も蝋燭買いに行きてぇ」となってしまう。しかし、おそらく自分よりはよほどドイツ語が堪能であるだろう著者でも、リューゲン島なんかのド田舎に行くとけっこう苦労していたようで、そう言われるとそれはそれでひるんでしまう。まずは先立つ物を貯めないとな、とか妙なことを考えた読後であった。