物語のクライマックスで、彼はある選択を迫られます。友人である黒人奴隷の逃亡を助けるのか、それとも、法や社会に従って彼の所有者に突き出すのか、という。
ハックはこの問いをめぐり、真剣に悩むのです。
そして、最後に選択をする。
この選択の瞬間にこそ、彼は自らに染み付いている道徳、自らを縛り付けている鎖を断ち切って、初めて「自由」を獲得した、私にはそう思えます。
この時の高揚感といったら!
一度は読む価値のある本だと思います。
なお、方言が用いられているために、読むのにかなり苦労したことを付記しておきます。
米国文学と言えば、その出発点と称される「ハックルベリーの冒険」は必読でしょう。どこにでもそう述べられています。ですが、読んでみて、この本は米国人ないしは相当に英語の知識がある人じゃないと、100%楽しめない本だと思いました。
そういう人たちなら笑ってしまうであろう、登場人物達による文法的誤り盛りだくさんの稚拙なせりふ、俗語、方言の数々。ストーリーテラーのハック自身がそうなのですから、市井の英語学習者には、その雰囲気は伝わるものの、読みにくさの方が先立ちます。昔、文庫本で読んだときの方がもっと楽しめたような気がします。(翻訳者は偉い。)
話の背景に当時のアメリカ西部の状況が生き生きと描写させていますし、たしかに面白い作品です。