若い頃のリリコ・スピントから年代を経るにつれ、ドラマティコの声質に変化し、その得意とする役どころも少しずつ変化していきました。
マスカーニの「あなたもご存知です、お母さん~『カヴァレア・ルスティカーナ』より」の重い役の劇的な歌い回しなどは、絶品ですね。CDですので、その全盛時代の演技の映像が見られないのが残念です。きっと、その美貌と相俟って演技力も抜きんでいたように感じました。
このCDは、彼女が声帯をいため、高音がでなくなる1960年以前の録音がほとんどですから、最盛期のマリア・カラスを聴くことができます。「ベスト・オブ・マリア・カラス」のタイトルに恥じない編集だと思いました。舞台衣装を着けた写真も多く伝説のその美貌を目の当たりにするだけでも幸せです。
また、1950年代のモノラル録音が半数以上を占めていますが、EMIのデジタル・リマスター・システムによって高音質で繊細な録音が再現され、より良い音で聴けることによってその歌声も現在に蘇りました。
プッチーニの「歌に生き、恋に生き~歌劇『トスカ』第2幕より」は、海運王オナシスとの恋にやぶれ、晩年催眠剤に頼り、孤独の中、53歳でこの世を去ったマリア・カラスの波乱万丈の生涯を象徴する、文字通り「歌に生き、恋に生き」のアリアだと感じました。