死んで自然にかえることとは
★★★★☆
樹木葬を選んだ人々を取材し、その言動を通して、現代日本人の死生観や、あるいは自然と人間との関係性を考えた作品である。1999年に岩手県一関市の祥雲寺において、時代のニーズに応えた新しい葬儀法の提供と里山保全を目的として始まり、その後、各地で徐々に増えつつあるこの習俗が、様々な人々の思いを受け止め、日本社会に少しずつ定着していく様子を、具体的に伺い知ることができる。
「自然にかえりたい」。これが樹木葬を選ぶ人々におおよそ共通して見られる望みである。墓石の下にいつまでも安置されるのではなく、山川草木とつながる世界へと自らのなきがらを融合させていきたい。それは既存の習俗からの離脱をはかろうとする極めて先進的な実践のようにも見えながら、その背後には、個々人が自分の生死をよくよく考え抜いたすえに到達した、自然との共生という原始的な発想が存在しているのである。
また本書では、樹木葬に比べると取材の度合いは浅いが、散骨(自然葬)に関するルポも記述され、加えて、2006年に逝去し紀伊の海に散骨された、鶴見和子さんの思想の魅力についても簡潔に論じられる。これらもまた、今日における人間にとって「自然」とつきあいそこに「かえる」とはいかなることか、という問いを深めるのに参考になるところ大であった。