しかしこの本の著者は、歴史資料を駆使して上記の「日本人論」はまったく根拠薄弱で歪めれられたものでしかなく、その元となったものは高々明治時代以降の近代天皇制国家成立後の話でしかないことを証明しているのです。
そして、文化史的視点を元に「壬申の乱」や「太平記」、「桜田門外の変」などの歴史的事象を分析し、日本人は決して昔から「お上」に弱い存在ではなく、権威に対して反抗的なところが多かったことや、独裁政治に対するアレルギーが強かったことを挙げています。
さらに中国や韓国とは異なり、純粋な宗族制度が形成されずに雑多なものとして残ったことや、儒教が生活領域にまで浸透していなかったことにより「公」概念のずれが生じたことや、さらにはそのような共同体の中での関係から個人が構築されていったことをのべ、個人形成に関して歴史的背景の異なる西洋と優劣比較することの愚かしさを述べています。
その上で徳川幕藩体制のあり方が日本の社会構造をよく反映したものであり、その中で武士が単なる職業軍人ではなく技術者としての技量がより重視されていたことなどが説明されており、そのような歴史的省察を欠いたままで西洋流の個人概念を押し付けることの愚を痛烈に批判しているのです。
他にもいろいろ面白い話がありますが、今までの「日本人論」を根底から覆すこの著作は、大変コンパクトでかつ的確な本としてお勧めできるものです。
文化史をふまえながら、政治や経済にも触れています。一般的に信じられている常識的な「日本の歴史」をかなり壊している、つまり最近の歴史学の変化を反映したテキスト=教科書。
公務員試験や大学入試で、日本史の全体像を得るのに、おそらくもっとも手近な本ではないでしょうか。実質210ページの濃縮版。ただ上記の意味で、古びている日本地域史の教科書とは多少の、あるいはかなりのズレはあります。
参考文献に品切れ本が多いのですが、これはそれぞれの出版社の問題か。この本の英語版が欲しい!