ゆったりと流れる優しい時間
★★★★☆
日本の誇る巨匠、朝比奈隆氏のモーツァルト交響曲集です。演奏の傾向としては、ワルター、カザルス、ベームなどの旧き良き時代の巨匠たちのスタイルに近いものですので、近年の古楽器系の演奏などが好みの方々には期待外れになるでしょう。聴いていると、ワルターほど甘美ではなく、カザルスほど厳格ではなく、ベームほど抑制されてもいない、それでいてこれらの特徴を少しずつ併せ持っているような、良い意味で日本人的な中庸な演奏です。聴き終わった後、感動・興奮・熱狂といった感じではなく、むしろじんわりと「ああ、いい演奏だったなあ、良いひと時を過ごせたなあ」と優しく癒されるような感覚の残る演奏です。オーケストラは日本のオケですが、日本人の演奏者たちもここまでのレベルに来たか、と思わせる上手さで、技術的な不満は感じません。録音は90年代のデジタル録音にしてはやや不鮮明なイメージがありますが、特筆すべきは、管楽器の響きの強さと美しさで、そうかここでこの楽器がこんな動きをしていたのか、という発見が随所にありました。ちなみに、40番ではクラリネット抜きの第一稿の楽譜が使用されており、この演奏に関してはこのほうが好ましい選択であったと思われます。