神々しいまでの英雄!!
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このCDの購入を考えている方は、きっと、朝比奈隆がヨーロッパの実力のあるオーケストラを振るとどんな演奏になるのだろうと興味深々の方なのではないでしょうか?もし朝比奈隆がウィーンフィルやベルリンフィルを振ってブルックナーやベートヴェンを演奏していたたらいったいどんな演奏になったのだろう・・・。それはファンにとっては見果てぬ夢のはず。今回発売されたこのCDのベルリンドイツ交響楽団は、ウィーンやベルリンフィルのような超一流オーケストラではないものの、ドイツの実力あるオーケストラ。ファンにとってついに見ることがかなわなかった夢を、ほんの束の間垣間見ることができるのではないか・・・自分もそんな期待をこめて聴きました。そして聴いての感想はもう予想以上!!演奏はいつもの朝比奈流なのですが、でてくる音楽がまるで違う。チェロの表情にしろ、ほんの伴奏にまわった木管楽器にしろ、すべての表情が決まっている。オーケストラが、ベートーヴェンはこういう表情で演奏する、こういうバランスで演奏するのだとわかっているのだ。だから音楽にとても高級感があっていつもよりはるかに美しい。そして演奏が進んで、ぐんとテンポが遅くなった時、オーケストラが奏でる音楽のなんという深さ、高さ、それはもう神々しいくらいで、圧倒されてしまいます・・!朝比奈はベートーヴェンをブルックナー風に演奏しようとしているのですが、それをオーケストラが芸術的に理解して高いレベルで表現しようとしている。そしてそれが可能なのだ。このあたりがどうしても日本のオーケストラとは違う。日本のオケもけっして下手というわけではないのだけれど、なにか一人ひとりの楽員に芸術的な高さ、力量の差があって、そのほんのちょっとした違いが、演奏を一つ高い次元に高めてる気がする。そしてこのCDを聴いて、はっきりとわかったことがあります。ことこの「英雄」に関してのみ言えば、朝比奈はフルトヴェングラーやクレンペラーと同格に語ることができる超一流の芸術家であるということ。もし彼が晩年シカゴ響以外にもベルリンやウィーンで指揮していれば、きっと晩年のヴァントやベームのような評価をされていたのではないか・・・。こんなすごい指揮者の存在を日本人だけが知っているのが誇らしくもあり、悔しい気がする。
まだこんな名演があったのですね
★★★★★
この演奏にこそエロイカの理想が実現されていると思えるほどのベスト盤のひとつです。
ベートーヴェンの意思の強さと高貴さが朝比奈隆の指揮のもと具現化され、
つらい時に勇気を与えてくれる芸術の王道となっています。
この演奏についての説明でCDライナーノートのシカゴフィルの総裁であったヘンリー・フォーゲル氏
の文章に勝るものはないと思います。
真に尊敬に満ちた文章でそれは朝比奈隆のべートーヴェンの実演を知る者には自然な感情です。
この味の濃さ、懐かしい。もう一度朝比奈さんのベートーヴェンを聴きたい。
REAL CONDUCTER,ASAHINA
★★★★☆
1989年9月24日、朝比奈隆とベルリン・ドイツ交響楽団によるベルリンでの『エロイカ』。周知のとおり、その後まもなく「ベルリンの壁」は崩壊する。
この演奏が何よりも素晴らしいのは、指揮者・朝比奈が僅かなりとも“よそ行き”になっていないところであり、大阪フィルとのライヴや同フィル、新日本フィルとのディスクに聴くベートーヴェンとそのスタンスにおいて相違がないことである。その点では、朝比奈のパフォーマンスは、東西冷戦の終結と東ドイツおよびその衛星国の瓦解という時代思潮とも無縁であったとも言える。
両端楽章の微動だにしないインテンポ、地響きのようなハーモニー、慌てず騒がずしかし心をこめて奏でられる楽音は、刺激的にやろうとか、驚かせてやろうなどという小賢しさは皆無であり、ただただ踏みしめるように『エロイカ』そのものが滔々と大河の如く流れる。これは驚くべきことだ!! こういう指揮者は他にはいないからだ!!!
アダージョの葬送行進曲のテンポは概ねスローなインテンポを基調としながらも、懐の深い変化を見せる。その趣きは、フルトヴェングラーのドラマチックな悲愴美とは一種異なった壮絶なものであり、ここは本ディスクの白眉である。まったく感服させられた!!! ピアニッシモで沈潜する部分などは息をのむほどの緊迫した佇まいであり、フォルティッシモの爆発は外面的なものではなく、これこそ凄絶な高揚を見せる。
朝比奈には熱狂的な信者とも言えるようなファンが少なくない一方で、彼のやり方を「無手勝流」だの西洋音楽の和声に対する感覚を欠いた“浪速流”と揶揄する向きもあるようだ。それは一面当たっているのだろうが、マゼール、チェリビダッケ、朝比奈と短期間に接したブルックナーの第8交響曲のライヴでは、圧倒的に朝比奈が感動的だった経験もある。「トーシロー」には聴き取れない音響や和声上のあれこれもあるのだろうが、本ディスクのライナーにあるシカゴ響総裁の絶賛する一文をみても、トーシローの感想がすべて間違っているわけでもあるまい。
少なくとも、この『エロイカ』を耳にする限り、朝比奈こそ<リアル・コンダクター>だと言いたくなる。