ブーレーズの主張が強く出ている
★★★★☆
マーラーの交響曲9番が調整音楽の限界と言われるように、8番もいわゆる既存のオペラ等の台詞付き音楽の限界(これ以上のものを作りようがない)として多くの人が考えていると思う。しかし、マーラーと新ウイーン学派との繋がりを強く意識しているブーレーズは、あくまでも一つの通過点として考えているようだ。
他の指揮者とは違った極端な表現をしているが、その多くはきちんと楽譜にそのように指示されている。もしかすると、この乾いた新ウイーン学派と聞き間違えてしまうような演奏がマーラーの意図したものかもしれない。
劇的な表現は抑えられており、テキストと音楽の関連を無くしているとも感じる。それゆえに20世紀に作曲されたオペラを聞いている気持ちにもさせられる。
録音は細部の音まで良く聞き分けられる優れたもの。ブーレーズの意図も良く聞き分けられる。
なお、細かくトラックが分けられていて、楽譜を持っていなくてもどこを歌っているのか分かりやすい。
ただし、2部(ゲーテ作 ファウストの最終場面)のテキストは難解なので、注釈が載っている本を買って読まないと普通の日本人では理解できない。 (キリスト教の知識を持っていなければ、テキストの意味を理解しにくい。)
テキストの理解を望まないのならば、マーラーのオーケストレーションの巧みさがよく分かるこのCDを強くお奨めできる。
ブーレーズのマーラー・チクルス完成
★★★★★
2007年4月ベルリンで録音。ブーレーズのマーラー・チクルス完成となるアルバムである。ブーレーズのマーラー・チクルスは第6番でスタートしていて1994年5月ウィーンで録音。これはブーレーズとVPOの初録音でもありもの凄く気合いが入っていたが、最後になった本作も気合いが入った素晴らしい演奏だ。
僕は第8番『千人の交響曲』をシュターツカペレ・ベルリンと録音したのは凄く意外だったが、聴いてみてなるほどブーレーズの頭の中には全曲のきちんとした設計図があったのだな、と感心した。大規模な管弦楽に加えて8人の独唱者および複数の合唱団を要するこの曲は交響曲の従来の概念を打ち破ってまるで巨大なオラトリオのような錯覚に陥る。実際、交響曲でなくオラトリオだ。だからこの曲に一番惹かれるのかもしれない。
荘厳なオルガンが常に足下を響かせる中、8人の独唱者と大オーケストラが作り上げるこの曲はマーラーの最高傑作だと僕は思う。