私たちもムーミン谷に住んでいる仲間のひとり
★★★★★
子供向けではない、大人の鑑賞に充分耐え得るシリーズ作品。
世間体や容姿にこだわる人、他者を見下す人、常に何かに怯える人、マイペースに徹する人、
何かを集めずにはいられない人、他者の視点に立てない人、独善的な親切を押し付ける人…
ムーミン谷が、私たちの世界と同じである事に気付くはず。
主人公であるムーミントロールは良くも悪くも「普通」の体現キャラクターで、読者に最も共感され易いと思う。
彼の意外に繊細な面が魅力的。「男の子は男らしく」という性差別が日本ほど酷くないのかな。
周囲は情緒的なムーミンを愛しているが、本人はハードボイルドなスナフキンに憧れている。
ムーミンパパがニョロニョロの放浪に憧れるように。定住を旨とするムーミンママとは対照的だ。
まぁ父も子も、帰る場所=ママがあるからこその放浪願望なのだが。
孤独を愛しても、完全なる孤独には耐えられない「社会的な動物」である面がよく出ている。
シリーズを通して読むと、あのスナフキンがあのミィの甥であったり(ミィの姉がスナフキンの母)と、
アニメでは知り得なかったエピソードが発見でき、なんとなくお得感。
作者の祖国の情勢不安を反映した「彗星」などは、近付く崩壊への恐怖が現代に通じて読み応えがある。
最終巻が多少尻切れトンボだが、ムーミン谷を出てしまった一家が、そのまま消息を絶つのも当然の話で。
どこか打ち捨てられた島の灯台に、彼らが住みついているような、ぼんやりとした余韻を楽しめる。
不思議な世界観
★★★★★
毎朝日曜の、世界名画劇場で育った世代ですが
アニメのムーミンとはまた違った面白さがありました。
フィンランドのことも、ヤンソンさんのことも何も知らない小さなころの読書体験でしたが
強烈な印象として残りました。
勧善懲悪だったり、説教めいていたり、しつけを目的としたり、といった
童話にありがちなイメージからははるかにかけ離れた独特の世界を持ったお話。
広大な大地をどこに行くのも、いつ何をしようとも全く自由。
でも必ず自分の足で帰ってこなければならないんだよ、ということを
教訓的でなく教えてくれる本です。
ヤンソンさん自身の挿画が、これまたとても楽しくて
子どものころはこの中に入りたくて入りたくてたまりませんでした。
特に、スナフキンと出かけた夜の小川(飛行おにの帽子からきいちごのジュースが出てきた!)のシーンと
ママのハンドバッグが見つかったお祝いパーティーの夜の挿絵・・・。
細部まで芸が細かい!今見てもわくわくします。
スプーンおばさん・ドリトル先生と並んで、子どもの頃に出会えて本当に良かったと思える本です。
この経験は私の財産です。
やさしいムーミン一家
★★★★★
ムーミン・シリーズ第3作目。やさしいムーミントロール、自己の役割に悩むムーミンパパ、ふところ深く寛容なみずうみのようなムーミンママ、かっこよすぎてたまらないスナフキン。魔法の帽子、お調子もののスニフ、ニヒルなじゃこうねずみ、謎の言葉を話すトスフランとビスフラン。盗まれたルビーの王様、嫌われ者のモラン、冬・やはりスナフキンは旅にでる。とりのこされたムーミントロールは、いつもさびしそう。それでも、ムーミン谷にひそむ意外な動物総出の8月パーティーはにぎやかで、飛行おにの魔法は人々を幸せにする。これほどなつかしく、幸福な気分にみたされたことは、ひさしぶりのような気がする。読めば、誰もが、やさしい気持ちにひたされることのできる本。また、謎にみちたムーミン谷の地図、深い陰影を帯びた挿絵の味わいも秀逸。昔のアニメもよかったけれど、ヤンソン氏の原作は、またいいつくせないほどの、深い味わい。
ふと読みたくなる・・
★★★★☆
私が初めて読んだ長編小説。
最後まで読みきるのが全然苦じゃなかったのを覚えてる。
彼らの生活の中には自然が溶け込んでいて(動物だしね)、
私まで一緒にその自然を感じているような気分になってしまう。
内容は、ちゃんと強弱があって飽きさせず、
ひねくれたお話ではないので理解しやすいです。
ユーモアも、優しさも、ドキドキも・・・
めいっぱい盛り込まれた物語。
私は、飛行鬼が怖かったのに好きでした。
子どものために
★★★★★
ムーミンシリーズを初めて読む方は まず本書を手に取るべきだ。
ムーミンシリーズの登場人物がきちんと出てきているし 他のシリーズ作に時折見られる 奇妙な暗さも無く 誰もが楽しめるように出来ている。
話は 魔法の帽子に始まり 最後は帽子の持ち主が念願のルビーを手に入れるところで終わる。魔法の帽子が起こす 数々の魔法は 楽しいし しかも なんとなく教訓も入っている点も悪くない。そう 子どもの頃は そんな教訓からも学んだのだと思うのだ。
別のシリーズ本のには ムーミンは子どものためだけではないと書いた。その思いは 本書に関しても変わらない。但し 子どものためになるということも確かだ。本書を思い出し このレヴューを書くにつれて その思いは強くなった。