空想的平和主義を排す
★★★★★
最近、尖閣問題をめぐり中国が強硬な態度を示している。レア・アースの事実上の禁輸、フジタの日本人従業員の拘束、北方四島に利害を有するロシアとの協働、その一方でのアメリカとの軍事上の対話開始、などの一連の動きを見ていると、尖閣問題における中国の強硬姿勢は、船長の身柄を拘束されたことによる一時的な感情的反発などではなく、政府最高首脳も了承済みのシステマティックな国家戦略であることが窺われる。一体中国は何を狙っているのか、日本人の全てが気になるところだろう。その答えはこの本に出ている。本書のサブタイトルにもあるが、ずばり「日本を属国化すること」である。
本書は指摘する。金融危機やテロとの戦いにより経済的に疲弊したアメリカは、世界に展開している米軍を現在のような規模で維持する余裕を失いつつある。他方で中国はその人口、広い国土、勢いを増す経済力をバックに世界へと打って出ている。中国の最終的な狙いは「ハワイ以西の西太平洋を自らの勢力下に置き、東太平洋を支配するアメリカと比肩する大国となる」ことである。そこにいう「ハワイ以西の西太平洋」には日本や台湾が含まれる。「勢力下に置く」といっても、無論、かつてのように「軍隊を派遣して、植民地化する」ことなどできない。だが、そんなことをしなくても「支配下に置く」ことは可能だ。現に台湾は中国(本土)沿岸部と経済的な一体性を強めており既に事実上「支配下にある」。日本もまた落ち込む経済を立て直すために中国への依存度を高めている。13億の巨大人口を抱える市場として、工業製品の原材料供給地として、あるいは日本に比べ依然として格安な労働力の供給地として・・・。(また、民主党政権になってからは、あるアホ政治家が子分を引き連れて「北京もうで」をしたり、普天間をめぐりアメリカとギクシャクしたりして、盤石だった日米同盟関係に隙間風が吹きはじめたようにも見える。)西太平洋全域を支配下に治める、そのとっかかりとして彼らは以前から尖閣諸島に狙いを定めていたが、「今こそチャンスだ」と考えたのだろう。
まさに「国難」である。が、「地政学的観点から、大国の世界戦略の根本にある発想を分析して見せた」本書のおかげで、現在日本が直面する危機の本質を理解することはできる。
願わくは、全ての日本の国会議員、そして真剣に国を憂う日本国民が本書を読んでほしい。そして、この本の説く「地政学的観点」をわがものとして、この国難を排する叡智を結集することを祈らずにいられない。
現状分析は優れているが、処方箋としては弱い。
★★★★☆
最近読んだ地政学の本である。著者は若手の地政学者である。珍しい経歴の持ち主で、音楽関係の専門学校を卒業後単身カナダへ留学し、そこで地政学にどっぷりとハマってしまったそうな。現在は、イギリスの大学院で、地政学の第一人者コリン・グレイ教授のもと、博士号取得に向け勉強中だそうだ。奇しくも私と同い年なので、感慨深く読んだ。
地政学という学問は、戦争に関する戦略を地理的側面をベースに考える学問で、地理学「ゲオ」と政治学「ポリティクス」をあわせた、ゲオポリティクスとして成立したのだとか。戦前は、日本の国でも盛んに研究が行われ、国策の枢要を形成していたそうだが、元をたどるとこの学問はナチスが盛んに研究し実践的に応用していたそうで、戦後は世をはばかる学問として肩身の狭い思いをしているそうな。ただし、それは表向きの話であって、実際はナチスを解体し調査したアメリカがこの学問の有効性に気づき、現代のアメリカ戦略の基本としているという。
日本の大学では、防衛大学ですら地政学の授業やクラスはなく、専門教育として地政学が勉強できないというのには驚いた。
ただ、この程度の認識は別にイギリスまで行って勉強しなくてもわかることである。孫子・韓非子・春秋左氏伝などを熟読玩味すれば、同様の結論に至るのである。処方箋として著者は3つの方法を挙げるが、いずれも処方箋としての体をなしていない。孫子の冒頭や、韓非子の冒頭にも書かれていることであるが、いかにして国論を統一して国民を死地に赴く決意をさせるか、これが大事なのであってそれなくしては机上の空論なのである。地政学も政治学であるならば、それを用いる政治家の力量ひいては人材なくしては、いかなる戦略も実現しないのである。
日本人の果たすべき役割
★★★★★
アメリカの発言力は明らかに低下しており、東アジアにおける覇権をある程度中国に明け渡す
腹を決めているのだろう。アメリカの強大な軍事力を支えているのは経済力であり、経済弱体
化がどこまで深刻化するかによって描くシナリオも変わってくるのだろう。
奥山氏は今後の日本には3つの選択肢があるという。中国の属国化かアメリカと共に没落か
或いは独立か。
30年も前であろうか倉前盛通氏の著作により、始めて地政学という学問のあることを知り、
当時若かった私は少なからず衝撃を受けたのを想いだした。国際社会は確かにこのような
「悪の論理」で動いているのであろうと思える。中国のプロパガンダと政治工作に’翻弄’
されやすい体質を持つ私たちに奥山氏のこの本は判り易く国際社会の論理を解説してくれる。
スパイクマンはかって「リムランド」を制するものは世界を制すると言った。日本が国際社会
に働きかけていくひとつの方向として環太平洋同盟とでも云うべきものをつくり、中国の膨張
を牽制し、技術力を磨き(軍事力を背景とせずとも_御著者の述べておられるように寸止め
核武装)国際社会に貢献できる状況が見出されるように思えてならない。
御著者はひじょうに公的意識が高く、その視点は日本一国の国益に留まらず世界全体にプラス
になる方向を絶えず模索しているようにお見受けする。まさしくすべての日本人が進むべき
方向ではないか?ひじょうに好感がもてる。
机上の空論
★☆☆☆☆
論理としては正しいし、全く著者の主張する通りだと思います。
しかし、一番の問題は「地政学」にのみこだわっていること。戦後憲法、日米安保条約、エネルギーや原材料の調達を含む貿易や輸出入、日本の国内政治のだらしなさ等、現実的な問題を排除しているに等しい議論なのは現実的ではない。
アメリカは〜するだろう、といった仮定に基づいた想定が必要なのはわかります。では、アメリカが日本に対して〜するであろう、と想定するその根拠が示されていません。結局、そういうもんなだから、という論調で本を書いているので、とんでもオカルト本よりも説得力に欠けているのです。
一番の問題は、仮に日本が「地政学」的かつ軍事的に独立する道を選んだ時、徴兵制度を受けいられるであろうか、という点ではなかろうか。国内的にも周辺諸国的にも。
「地政学」も必要ですが、それを含む多面的な議論はもっと必要だということは、よく理解できました。
たいへん読みやすい本だ
★☆☆☆☆
あっという間に、読めてしまった。
「アメリカの南北戦争で”マシンガンが活躍した”というのは本当なのだろうか?
南北戦争後、40年余たって”日露戦争”で苦戦した日本軍は何?