前者はジャズ界の奇人変人の話題が豊富だからで、愉快な人物が多い一方、お友だちになりたくないような強烈なキャラも少なくない。後者はジャズの歴史本に載らないウラの歴史がかいま見えること。とくにジャズ創生期の人々の証言の数々は貴重だ(サッチモはデビュー当時、楽器に細工をしているのではないかと疑われていた、なんて話も載っている)。米国社会に根強い「偏見」についても、さらりとした表現ながら考えさせられるところが多い。
また高名なミュージシャンの知られざる一面が紹介されていて、これがけっこう意外。イメージが壊れてしまうので、抵抗を感じる人がいるかも。実際、ベニー・グッドマンに関する記事はグッドマン・ファンの反撥を買い、著者は激しい抗議にさらされた(と後の著書に書いてあった)。
何百人もの登場人物には圧倒される。オールド・ジャズに関する話題も多いので、ジャズを幅広く知っている人でないと、未知の人物だらけということになりそうだ。わたしは中学生時代から三十数年ジャズを聴いているし(足し算をしないように!)、スウィングもニューオリンズも持っているんだけれど、それでも1割以上が知らない人だった。しかし、それで話がつまらなくなることはなかった。むしろ読んだことによって親しみがわき、機会があったら聴いてみたいと思っている。