《パズル》シリーズの第五作
★★★★★
兵士の慰問のため、東京へと旅立つ妻で女優の
アイリスを空港で見送った、ピーター・ダルース。
その帰り道、ピーターは何者かに襲われ、記憶が途絶えてしまう。
――目覚めたとき、ピーターはまったく覚えのない部屋で右腕と左脚にギプス
をはめられ、ベッドに寝かされていて、自分が誰かも思い出せなかった。
やがて、母親と、妹と、妻と名乗る見知らぬ女たちが次々に現れ、彼のこと
をゴーディという名前で呼び、二週間前に交通事故に遭ったことを告げる。
だが、何かがおかしい。
何故女たちは自分を監禁し、珍妙な詩を暗唱させようとするのか?
ピーターは、女たちが自分を別人に仕立て上げよう
としているのではないかという疑惑にとらわれ……。
記憶喪失者の正体は最初から読者に明示されているので、焦点となるの
は、何故女たちはピーターを別人に仕立てようとしているのかという謎と、
その別人――ゴーディなる人物――が犯したとおぼしき殺人事件の真相
になります。
手足にギプスをはめられ、行動の自由を奪われたピーターが、女たちの“罠”
を回避しつつ、自らのアイデンティティと事件の真相を探す――という本作の
趣向は、独特のサスペンスを生んでおり、調子よく読ませてくれます。
そして、終盤に用意された周到などんでん返しも実に巧妙で、
サスペンスとして、非常によくできた作品といえると思います。