システム論研究序説
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フォン・ベルタランフィ以来、システムの概念は、相互作用する要素の関係として定義されたが、こうした全体部分関係論的な定義だけでは、システムと環境の差異が明確ではないので、システムは、複雑性を縮減する主体として機能的に定義されなければならない。システム論における複雑性とは、不確定性の大きさ(確率の逆数)である。実在する要素や要素間の関係といった常識的な意味での複雑性は、複合性として、常識的な意味での複雑性から区別されなければならない。複雑性の対数がエントロピーであり、システムが複雑性(エントロピー)を縮減した結果、排除された諸可能性の集合が、そのシステムの環境を形成する。システムと環境は、通俗的には空間的な内と外で区別されるが、情報システムに空間的な内と外は存在しないので、両者は複雑性(エントロピー)の落差によって説明されなければならない。
私たちは、情報システムとして、可能的意味の過剰を削減しているが、間主観的には、その選択はダブル・コンティンジェントになる。そして、社会システムとは、ダブル・コンティンジェンシー、すなわち、自己の選択と他者の選択が相互に相手の選択に依存している二重の不確定性を縮減する機能として定義できる。自他の間に完全な対称性が成り立つなら、私たちは、ホッブズが自然状態で起きると想定した「万人の万人に対する闘争」から抜け出せないが、対称性の自発的破れにより、資本の非対称な蓄積が起こり、高資本の第三者が媒介者となることで、ダブル・コンティンジェンシーは解消される。その際、媒介の機能を果たすのが、言語、貨幣、刑罰などのコミュニケーション・メディアである。
熱力学第二法則によれば、物質システムのエントロピーを縮減しようとするなら、それ以上のエントロピーを環境において増やさなければならない。すなわち、システムは、複雑性を縮減するためには、複雑性を増大させなければならない。これは、物質システムのみならず、情報システムや社会システムにも当てはまることだ。一般に、システムは、持続可能であるためには、環境適応性と変化適応性の二つの要件を満たさなければならないが、前者は複雑性を縮減するために、そして後者は複雑性を増大させるために必要である。本書は、ここから、なぜ社会システムを持続可能にするためには、格差の否定でも格差の固定でもなく、格差の流動化が必要であるかを論じる。