【セブン-イレブンで24時間受取りOK・送料0円!】 著者/訳者名:中西新太郎/編 高山智樹/編 出版社名:大月書店 発行年月:2009年09月 関連キーワード:ノンエリ-ト セイネン ノ シヤカイ クウカン ハタラク コト イキル コト オトナ ニ ナル ト イウ コト のんえり-と せいねん の しやかい くうかん はたらく こと いきる こと おとな に なる と いう こと、 オオツキ シヨテン オオツキシヨテン 0717 おおつき しよてん おおつきしよてん 0717、 オオツキ シヨテン オオツキシヨテン 0717 おおつき しよてん おおつきしよてん 0717 限られた資源・条件のなかで、なお「なんとかやっていける」空間を築こうと模索する若者たち。その労働・生活・文化を濃密なフィールドワークから描き出す。 序章 漂流者から航海者へ-ノンエリート青年の「労働‐生活」経験を読み直す第1章 専門学校生の進学・学び・卒後-ノンエリート青年のキャリア形成ルートとしての意義と課題第
種々の制約下にありしも見出される主体性
★★★★☆
経済階層において劣位におかれた若者に焦点をあて、本書は彼あるい
は彼女らが社会的制約のなかで生活を営む様子を描き、またその限定
性においても不断に試みられる主体性を指摘する。
序章と終章を入れて全7章の構成で、間の5章はインタビューや参与観
察による事例研究となっている。400ページを超える分量であり、事例
研究のところがやや冗長なところもあった。一貫して問題意識が共
有されていたことから、また裏をかえせば丁寧に記述されているという
ことなので読みやすかった。
本書は従来の研究が、青年から成人への移行があまりにも社会標準と
されるものばかりに目を向け、若者論としてひとくくりに語っている
として批判する。非正規雇用の増加や所得の減少は、(「学校から企
業へ」という職業世界への移行プロセスをはじめとする)従来の標準
的な若者のライフコースの再編を要求した。ただし、従来の標準像を
解釈枠組みの根底においたアプローチは状況が変わった現在において
もなされ、編者のひとり中西氏はこれが「所与性のドグマ」にとらわ
れたものだと批判する。
さらに、標準像を見出すことが困難な現在は、青年から成人への移行
もまた標準から離れた多様性をもつことになる。なぜなら、標準像から
こぼれおちた彼/彼女は標準像が与えてくれる移行プロセスが参照でき
ない立場にあるため、主体的にそれをなさなければならないからである。
これまでも不安定就労を余儀なくされる若者はいた、確かにいたんだが、
それがマイノリティではなくなってきている現状があり、それに適合的
な移行研究が求められているという。
多くの制約におかれるなかでも、周囲とつながり「共同の戦術」「共同
の対処」をみせる彼/彼女たち。中西氏はそれらを現代ノンエリート
青年の「社会技法」だと述べている。終章の高山氏も消費文化の文脈で
「スタイル」として回収されることの多かった若者文化に対して、主体性
を強調し「生産」する青年像を提示している。これらの議論が1章から5章
で紹介されている事例の数々を輪郭付けし、ならびに事例の数々はこれ
らの議論を色づけしている。
「漂流者」から「航海者」へ
★★★★★
近年、若年研究の力作が数多く蓄積されつつあるが、本書は、それらの中でも事例の記述の「分厚さ」という点では、出色だと思う。「ノンエリート青年」の労働と生活を共通テーマに「専門学校生」「引越屋」「請負労働者」「自転車メッセンジャー」「高卒女性」の生活世界がたんたんと、しかし、時に生き生きと描かれている。
それに成功しているのは、インテンシブな調査を本にした各章が、一貫して、ノンエリート青年を、不安定な社会の「漂流者」としてではなく、「航海者」として捉えていこうとしているから、ということになるのだと思う(中西氏のこういうネーミングはいつもながら的確だ)。たとえば、高卒女性の5年間を描いた「大都市の周縁で生きていく」では、雇用条件の厳しい中で働いている女性たちの軌跡が丁寧に描かれている。そこにあるのは現代社会に翻弄されているに過ぎない女性たちの姿であるかもしれない。しかし、彼女たちは、また、離転職を繰り返す中で、友だちと一緒の職場にしたり、時給のいいバイトにしたり、オープニング・スタッフとしての就職にこだわってみたり、少しでも「なんとかやっていける」ように少しづつ変化し始めている。筆者は、彼女たちのそうした姿の中に見えにくい現代の若者の「成長のかたち」を見いだそうとしている。
また、各章が徹底しているのは、若者たちの「文化」に注目しているところである(それは、文化なるものにこだわり続けている両編者が示した指針でもあるのだろう)。文化とは、つまりは自らの世界を少しでもよりよいものにかえていくために生み出され、共有されていく知恵や技の体系とでもいえばいいだろうか。例えば、請負労働での参与観察をもとにした「請負労働の実態と請負労働者像」では、仕事が終わって、駅へ帰るみちすがら、コンビニで酒とつまみを買い、それをみんなで食べながら歩いていっている姿が描かれている。ささいな記述かもしれないが、「文化」なるものが日常的に培われている様子をビビッドに浮びからせる記述だ。また、引越屋の労働世界を描いた「若者が埋め込まれる労働のかたち」では、引越労働者たちの技とこだわりが、これでもか、というぐらいに丹念に描かれている。こんな描写、引越労働者たちの世界をかなり掴んでいなければ絶対無理だ。
このように書いたからといって、本書が若者の現状に対して楽観的な記述をしているわけではない。読めば、たいがいのひとは、暗澹たる気持ちになるだろう。わたしもそうなりました。けれど、ここに出てくる若者の多くは自らを疲弊させ、苦しめている労働や生活、そして人間関係のその只中で、同時に、助け合い、生活していくための知恵や技を作り出してもいる。だから、本書を読むことで、わたしは、現代の若者の姿に絶望するだけでなく、希望することも出来たのだと思う。
中高年と若者をつなぐ必読の書
★★★★★
高い本である。しかも「ノンエリート青年の社会空間」。ちょっと聞いただけでも何か難しそうな題名だ。
でも、一度読みだすともう止まらない。今までほとんど取り上げられることのなかった専門学校とそこに通う学生、「自転車メッセンジャー」と呼ばれる青年、製造業現場の非正規労働者、「引っ越し屋」、高卒女子の進路についてのフィールドワークなどなど。若者たちの置かれた今の居場所を徹底的に調べ上げ、彼らが独自のネットワークと文化をはぐくむ兆しを鋭く観察している。
研究者の学術的な分析だけではなく、同じ「釜の飯を食べる」この姿勢で、若者の中に飛び込んでゆく。そこには、同世代でもある執筆者の目線に暖かいものを感じた。
実際に、この本を読んで欲しいのは、第一に同じような環境で、さまざまな葛藤を経験している青年男女だ。しかし現実の格差社会のなかで、彼らがこの書に遭遇するのはそう簡単な話ではない。そこで彼らの親の世代である団塊の父母の出番だ。自分の息子、娘たちをしっかり見つめ、彼らにこの本をぜひ届けてほしい。中高年と若者をつなぐ必読の書である。
これを契機に、もっと多くの分野で日々学び、働き、それぞれの生活を営んでいる若者の実態に迫ってほしい。多くの「ノンエリート青年」を応援するこの「青年研究者チーム」に今後のさらなる活躍を期待したい。
”社会空間”がミソ
★★★★★
「若者の移行研究」とか「青年期研究」とか言われる領域が、ここ数年賑やかになってきました。若者たちが直面している仕事や生活上の問題が、かれらの”緩さ”のせいではないことも、次第に共有されるようになってきています。
本書の面白いところは、その対象者の多様性と特異さでしょう。専門学校生、自転車メッセンジャー、引越し業者、請負労働者、そして高卒女性たちの生活世界。そのユニークなフィールド自体が大変興味深いと思います。
ですが、その上でもう一つ重要なのは、「社会空間」というキーワードです。かれらは社会的・構造的に形作られた問題を抱えてはいる、けれども、それだけではない。かれらは自分たちの「文化」を作ろうともしているというのです。しかもそれは「文化」を作ればいい、と手放しに評価できるものでもなくて、やはりかれらの社会的条件のなかで見出されなければならない。
このパラドキシカルな理解から見えてくるものが、ますます問われてくるのではないでしょうか。その意味で「社会空間」という本書の視角は、近年盛り上がりを見せる青年問題にとって、新しい議論の土俵を開きつつあるように思いました。