いちばんの魅力は、ビートルズが彗星のように世界を席巻する過程を、メンバーと同じ視点で「裏側から」見られることだ。たとえば、ティーンエージャーだったジョンやポールと一緒に、「モク(タバコ)をやりに」墓地にこっそり忍び込む。そこで2 人は、墓碑に刻まれていた、ファーザー・マッケンジーや、エリナー・リグビーといった名前を、無意識のうちに頭に刻んだのだ。あるいは、ポールが夢の中で、ある曲に最初につけた歌詞を聞くことができる。「Scrambled eggs, oh, my baby, how I love your legs.(スクランブルエッグ、ああ、愛しいきみよ、きみの脚はなんてすてきなんだ)」(さいわい、できあがったのは『イエスタデイ』だった)。また、エルビスと一緒に即興演奏をしたときのことや、ボブ・ディランにマリファナを吸わされた夜のことも、詳細に知ることができる。(ポールは興奮状態で「宇宙のメッセージ」を書きとめ、翌朝、「THERE ARE SEVEN LEVELS」というフレーズが走り書きされているのを見つけた)。たった1人、スタジオで幻覚剤のLSDを服用したメンバーがいたこともわかる。アンフェタミンと勘違いしたジョンだ。アビー・ロードのスタジオの屋上で、星の美しさに驚嘆して、『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』のヒントがひらめいたはいいが、あやうく足を踏み外して死ぬところだった。
本書は、ビートルズというグループの自然体で伸びやかな面を、しっかりと捉えている。その伸びやかさがあったからこそ、彼らは不滅のグループになったのだ。さまざまな争いごとが明らかにされているが(『ヘイ・ジュード』で、ジョージがポールのボーカルに応答するギターのフレーズをつけ加えたとき、ポールがそれに反対してもめた)、なぜ彼らが共に活動していたかについてもつづられている。リンゴは、いみじくもこう言っている。「エルビスには、へつらう人はたくさんいても、友だちはいなかったみたいだ。だから坂を転げ落ちていった。それに比べてぼくたちは、みんな代わるがわる頭がおかしくなっても、決まってほかの3人がそいつを正気に引き戻したんだ」
ビートルズを愛したことのある人はみんな、この本のおかげで、かつてなじみだった場所に帰ってきたような気持ちになるだろう(そして今なら、ヨーコも温かく迎えてくれる)。