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「自然との共生」というウソ (祥伝社新書152)

価格: ¥798
カテゴリ: 新書
ブランド: 祥伝社
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甘い言葉の罠 ★★★★☆
この本は,自然との共生について,別の視座に誘ってくれる.

自然との共生とは,日本のような自然豊かな場所で初めて成り立つ.自然と共生しようと思ってもできない砂漠などもある.共生の考えで,火入れをして湿地の遷移を止めることは,植物以外の生物にとっては,迷惑なことかもしれない.

絶滅危惧種を守れと言うが,絶滅は過去から何度も繰り返されてきた.そのニッチに新たな生物が占め,あらたな生態系ができるだけである.共生の考えで希少生物を守ることは,自然に逆らうことである.その希少種も主観的に決められた可能性が高い.人間に気づかれにくい生物種は,視野に入っていない.レッドデータブックにのる生物は,絶滅に瀕している種のすべてではない.

人間が利用してきたなれの果てが里山であり,破壊のあとだ.それを守ろうとする自然共生は当人が知る過去への郷愁ではないか.もっと長いスパンで考えると,里山は一過性のものに過ぎないと悟るはずである.たとえばギフチョウは,そもそも里山の生物である.ギフチョウを高いコストをかけて守る必要があるだろうか.これを理解したうえで,里山保全を推進する冷静さがほしい.

人の手が入らなくなった場所は,生物が豊かである.自然が好きなら人間の手を加えてはいけない.稲の栽培によって,どれだけの自然が失われたかに思いをはせる必要がある.

このように著者は説くものの,自然に手を加えないとすると,人間の生活が危うくなる.どれだけの人口を維持することが適当なのだろうか.ヒトは大型の哺乳類である.その生活に必要な土地の面積も大きい.ヒトの住処という巣も大きい.

結局,ヒトの繁殖と巣作りを知性でコントロールできるかにかかっていると思う.ここに知恵が必要だが,それは読者が考えるしかないようだ.

この本の内容は,「自然との共生」を声高に叫ぶ環境省を中心とする一方的,一面的な世論の流れに対する現状批判であるが,これに変わるべき方針,哲学をもっと明確に示してほしかった.しかし,現状の一方的な思潮を冷静にさせるチカラはあると思う.
著者の主張に共感はするものの、ややバランスを欠いている ★★★☆☆
評者は5年ほど前から環境教育関連NPOなどに参加して、環境保全活動の現場に立つことも増えているのだが、「自然との共生」を謳い文句にする現在の自然保護運動の多くを、「自己中心的な利己的欲望」と断罪する著者の主張には、深い共感を覚える。特に「他人に自分の自然観を押し付け、自分に不都合な悪い変化はすべて糾弾しようとする」などの言葉は、保護・保全の現場でしばしば見つかる、近視眼的な“環境保護原理主義の皆さん”に、是非一度聞かせてやりたいものだ(笑)。
自然保護・保全に関わる人は(私自身も含めて)、一度はこの本を読んで、自らのある種の“上から目線”を反省した方が良い。

しかしこの本には重大な欠点がいくつかあって、その一つは、著者の主張を裏付けるエビデンスとしての事例紹介がほとんどないことである。自分が経験した少数の事例を全体に引き伸ばして、「そもそも○○なんてものは…」と主観的な批判をするのであれば、そんなものは酔っ払いの愚痴と変わらない。

そしてもう一つ、更に大きな欠点は、自己愛の発露としての自然保護活動を否定したい思いが強すぎるあまり(?)、読者を、自然保護思想そのものの否定へと導きかねないことだ。著者本来の主張は、「環境破壊(改変)は人間の本能に基づく行動であり、環境保護活動すら、その人の利己的活動に過ぎない。」ということを十分に認識した上で、「自然保護活動の意義や、あり方を問い直せ。」という辺りなのだろうと推察するのだが、多くの読者はむしろ、「自然保護なんて無意味だ。どんどん自然破壊して良いのだ。」と感じてしまうのではないか。著者の本意は分からないものの、その点では、最近流行りの「○○のウソ」本の類に思われても仕方がない。

著者の主張には共感しつつも、これらの欠点を考えると、とても気軽に他人に薦めることは出来ない。環境問題や保護・保全活動に関するリテラシーの高い読者にのみ、お勧めしたい。星3つ。
最も今日的問題に切り込んでゆく ★★★★★
 今の日本には「自然との共生」という言葉が溢れかえっている。この言葉さえ使っておれば、天下ご免である。そこにひそむ矛盾をあらためて提示し、我々のあり方をもう一度考え直そうとしているのが、本書のテーマである。
「何かおかしい」と思わなければ、もう人類は終わりだ。私たちが見つめている自然は「本物の自然」なのか。なんでもかんでも取っておきたい人ごころ。
「エコーツアー」とは何か‥正義の押し売り〈保護に関わる自分たちを正義の番人として正当化〉とそれが当たり前だとしての免罪符やいかに。
 種の大量絶滅、そしていつか人類も絶滅へ、人間の運命を予知する。「自然と共生」というウソ。自分保護としての自然保護でしかない。跳梁跋跋扈する人間が出しゃばらず、謙虚であること〈少子化肯定など声高に言えないが〉の大切さを教えられる。