田辺聖子氏による喪主挨拶の文面を二年前の文藝春秋掲載時に目にし、おっちゃんのエッセイは未読だったが、滋味あふれる文章から浮かび上がるカモカのおっちゃんの人柄にふれ、涙がこぼれたのを覚えている。
今回はその文章も巻末に収録されているが、何気ない日常に始まり、発病からのいきさつをつぶさに知って読むと、胸がつぶれる程の感慨を持って迫ってくる。
ぬいぐるみたちとの会話も、読み始めには違和感を持ったがやがて溶け合い、聖子氏の公の顔と私の顔をつなぐ貴重なメタファーだとわかる。
“神サンは悪人、現世は苦役”と笑い合う夫婦の、人柄と人柄が織り成す人生の綾は、濃く深く厚みがあり多くの友に彩られている。