日本の選挙はくだらなくて面白い
★★★★★
時は自民党の小泉政権が絶頂の時代。
場所は神奈川県川崎市の市議会議員の補欠選挙。
市議会議員の補欠選挙だから、
市の有権者からも「選挙あるの?何の?」と聞かれるくらい話題性も低い。
政治経験・地盤もゼロの素人の山内和彦さん(東大出身の自営業者)が
組織(自民党)の力をかりて
選挙に当選するドキュメンタリー映画。
30秒間に一度は自分の名前を言わないといけない。
映画の中では、公約的な政策はほとんど演説していない。
山内さんはそのほとんどの時間を自分の名前を言っているだけ。
他の助っ人の議員先生が応援に演説してくれている。
小泉首相(当時)も助っ人にくる。
それで当選してしまう。
日本の政治・公職選挙法について考えさせられるドキュメンタリー映画。
選挙権をもつ20歳以上の人に是非とも観てほしい映画だ。
※DVDにある特典映像は必須です。
特にベルリン映画祭の会場での舞台挨拶の内容は深い。
立候補をしようと考えている人は必見!!
★★★★★
傑作です。
「なにか」に疑問を感じながら選挙戦に臨む「自由民主党公認候補 山内和彦」さん。
政治を志し、政治家になろうと考えている人、必見のDVDです。
なにやら映画部門のピューリッツアー賞と言われる、栄誉ある『ピーボディ賞受賞』したらしい。
それも納得できる。
監督の仕事には星5つ。でも主人公が…
★★★★☆
対象への徹底的な接近や、一方で主観の徹底的な排除という、想田和弘監督の手法は小気味いい。
監督には文句なしに星5つ。
でも、あえて正直な私の感想を以下に書き並べたい。
私はこの候補者に、最初から最後まで全く思い入れが持てなかった。
政治家としての魅力がまずゼロ。次第に人間的魅力も失せていった。
最初の部分で候補者が政策を尋ねられる場面。
「子どもへの支援を…」と言うものの、ハッキリ言ってしどろもどろ。
立候補しておいて、具体的に何をやるかを全然考えてない。
何よりも、人に自分の意志を伝える能力が感じられない。
自分の得意分野になると朗々としゃべる。だから一見政治家向きかな、と騙されたのだろう。
でも、それ以外だと全くダメ。
このデクノボウを周りが何とか形にしようと、いろいろな策略(もちろん合法的に)が行われる。
その駆け引きは非常に面白かった。
選挙参謀やボランティアは自分のポリシーをちゃんと持っているので、
党利党略に固まっていても見ていてイライラしない。
一方の候補者は(政治家としての)自分というものがきわめて薄いため、
投票日が近づくにつれ、党の色彩ばかり目立って、個人がますます色あせる…
監督の冴えた編集により、我々はこの作品から多くを受け取れるだろう。
私は候補者を断罪したが、見る人によればその矛先は政党や、
あるいは背景の地域社会や日本、あるいは制度やシステムといったものに向くかもしれない。
選挙に出たくなくなるおもしろい映画です。
★★★★★
選挙区とは縁もゆかりもない東京在住の自営業者が、川崎市の市議会議員選挙に自民党の落下傘候補として公募で選ばれて戦った選挙の全記録。何がすごいかというと想田和弘監督の観察映画というだけあって、ひたすた見学者に徹して偏見もインタビューもなしに冷静にカメラをまわし続けていたこと。自民党から派遣された選挙参謀や支援者が、自民党公認というだけで選挙マシーンに徹して担いでいる。候補者の意思には関係なく、担ぎ手の支援者は候補者を急き立て指示して、挙句の果てには叱りまくる。票を獲得するために幼稚園の運動会に顔を出して来賓席に腰掛け、手伝ってもらう現職は退屈そうな幼稚園児を前に父兄への挨拶までする。祭りの神輿をかつがされ、老人運動会では準備運動にも参加。選挙が始めると、まともな公約もなく地域も知らないような候補からの口からはひたすら自らの名前を連呼し続ける。仕事を休んで応援に来た候補者の奥さんは周りからあれこれ注文をつけられ、早く子供を作った方が良いとまで言われる。中盤では候補者の山内和彦氏を訪ねてきた元東京大学同級生を相手に、「何をしても怒られる」「公募だけどある程度の出来レース」「東大を出てるだけで選ばれたマシな候補」と本音がポンポンと口から飛び出る。こうやって冷静に見ると確かに日本の選挙はかなり変だ。候補者を応援する自民党の市議会議員も、次回の市議選では敵となるので自らの支援者を持っていかれないように注意を払う。選挙の運動を手伝っている支援者も候補者のことを良く知らず、選挙を手伝う理由はただ単に自民党公認ということだけ。候補者であってもあくまで自民党が担いだ神輿であり、平気でバカにした言動を繰り返す。当選した候補者を先生と呼んで態度が一変するかと思いきや、当選バンザイの場にいなかったというだけで同僚となる市議会議員と支援者が揃ってけなし始める。これでは信念を持って自分の政治活動を続けるのは無理だろうと、見ていて思う。その後、川崎市議を1期で勤めただけでやめた山内和彦氏はまともな神経をしていたのだとつくづく思いました。
貴方の街の議員が出来るまで
★★★★★
低予算の作家性の強いドキュメンタリーの可能性と面白さを、教えてくれる一作です。
カメラに人柄があり、それが力となることを知り、選挙というお祭りを通して日本の「政(まつりごと)」の実態を知る作品です。
主人公である山内和彦さんの人の良さと、川崎市議会議員補欠選挙を取り巻く選挙関係者に受け入れられた製作者のカメラが、選挙関係者と選挙区内部の本音を映し、体温と体臭を切り取り、重層的な人間関係を解き明かしていく。
選挙事務所関係者でも少数の者しか知りえないだろう選挙から見える人間と地域のダイナミズムの全体像に近づけた気がする。
川崎市のある選挙区を通して都会の中のムラ社会の実在が浮かび上がる。
この補欠選挙が行われた時期、小泉ワンフレーズ劇場が最盛期を迎えていた、そこでの市民の熱狂が記録されている。
画面の中の小泉改革の熱病に反応し踊った市民は、今振り返り自らの姿を映し出されるこの映像を観て何を考えているのだろうか。