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The Coasts of Bohemia: A Czech History

価格: ¥6,294
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Princeton University Press
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   ボヘミア(チェコの旧名)は中世、近世の宗教戦争、近代の世界大戦のようにヨーロッパ史の大事件の舞台となった重要地域であるのに、西欧人にはなじみが薄く、異郷扱いされてきた。この本は内陸国であるボヘミアに「海岸がある」という逆説的な題名をわざとつけて、諸外国勢力との物理的、文化的な接触、対決によっていかに「チェコらしさ」がチェコ人の間に培われていったか、近現代史に焦点を当てて、チェコ人の立場にこだわって説明した文化史だ。

   著者デレク・セイヤーは、現在カナダ、アルバータ大学の社会学の教授である。著者は「チェコらしさ」の根源を、チェコ人歴史家たちが宗教戦争であると共にチェコ人のドイツ人に対する民族解放戦争であると定義する、15世紀のフス戦争に求めている。チェコは、17世紀の30年宗教戦争中、ハプスブルク王朝とカトリック勢力によってチェコ語文化を一度失ってしまった悲痛な歴史や、20世紀にナチスの占領下で再び文化喪失の危機に立たされ、さらに第2次世界大戦後のマルクス主義政権によって文化、歴史が歪曲された体験をもつが、この「チェコらしさ」は、そんな歴史体験のつど、チェコ人文化人たちに強く意識され、創作活動を進める大きなエネルギーをもたらしてきた。著者はチェコ人文化人のなかで特に、チェコ、スラブを好んでモチーフとして絵画、ポスターを作ってきたアルフォンス・ムハ(ミュシャ)のような芸術家、チェコの歴史に取材した小説を多数書いてきたアロイス・イラーセクのような文学者について解説している。

   ただし当書は堅苦しい民族主義的な文化史には終わっていない。著者は、チェコスロバキアが独立してから、チェコ語文化復興にはじまる民族運動を闘ってきた19世紀生まれのチェコ人と、文化復興後である20世紀生まれのチェコ人の間で「チェコらしさ」をめぐり世代的ギャップが生じていることをも力説している。「スラブ叙事詩」に代表されるムハの大仰なロマン主義的芸術と並んで、カレル・テイゲなどの野趣あふれるアバンギャルド芸術の作品の数々を紹介して、これまであまり取り上げられてこなかったチェコのモダニズムについても詳説しているのは、美術ファンにとって興味深い。一般向けにはやや専門性が高いが、潜在的なチェコ・マニアにとって一読に値する力作だ。(川村清夫)