デリダ最期の挨拶・挑発
★★★★☆
晩年のデリダの民主主義論。言葉づかいはさほどでもないが、各章の記述がかなり断片的というか、連続性が見えづらく難解。民主主義を哲学的に議論するためのスケッチといったところ。第一論文ではプラトン、アリストテレス、トクヴィル、ルソーそれにナンシーらの著作をもとに「民主主義」の哲学的読解に挑む。部分的には、たとえば民主主義の他者としてのイスラームとか、<兄弟愛>という観念の陥穽(隠然たる男性中心主義)とか、民主制自体に内在するアポリアの指摘など、興味深い指摘が多く含まれるが、それぞれが十分展開されないまま並置されている印象。最終章ではハイデガーの弁明にも触れられ、「救う神」というモチーフがフランス語のsalut(健康・無事を祈る、挨拶…)と対比され、締めくくられる。
おそらくデリダはここから何かの結論を引き出すことより、新たな(来るべき)思考を喚起しようとしているのではないか。そういう意味では、思考すべき素材の宝庫のような書物と言えるだろう。