昭和16年の地図の陥穽
★★★★☆
見開きの左に昭和戦前期の地図、右に同じ範囲の現代図があるので対照が楽しめます。空襲前の東京の街路やランドマーク、番地に至るまであますところなく載っているため、資料性は非常に高いと思います。ただし、元図が昭和16年というのに注意が必要です。昭和10年代になると、軍・皇室・ライフライン関係は機密事項とされ、該当部分は地図にも掲載されなかったり、わざと誤った情報が掲載されているのです(それはそれで今となっては貴重な時代の証言ですが)。たとえば、北の丸は近衛師団の庁舎があったはずですが、ここでは芝生や散策路が描かれた公園として表現されています。同様に淀橋浄水場や新宿御苑、宮邸などことごとく公園もしくは一般の宅地に偽装されています。資料性を考えるのであれば、いちばん正確な昭和8年頃の図を使用してほしかったので、☆一つ減ですが、とてもよくできた本だと思います。