栂ノ尾にひっそりと佇む名刹高山寺
★★★★☆
阿川佐和子の巻頭エッセイ「高山寺探訪 残り紅葉まで」の味わいのある文章に魅了されました。軽妙で洒脱で、文章の巧みさはお父さん譲りです。書かれている残り紅葉は12月上旬の紅葉で、高山寺が少し静かな佇まいを持てる時期の散紅葉が素敵な景観を作ります。17ページの表参道の写真は新緑の緑に包まれていますが、残り紅葉の表参道の美しさは格別です。雪景色の表参道も掲載してありますが、凛とした雰囲気が伝わってきます。
11月は1日に3000人の観光客が訪れると書かれています。山の中ですので境内にはいつも静かな雰囲気が漂っていますが、紅葉の時期は普段の佇まいを一掃するような喧騒に満ちていますので、それを覚悟すれば他では見られない紅葉の観賞ができると思います。
本書は高山寺の魅力を写真と文章で紹介したもので、学術的にも美術的にも価値の高い出版物でした。有名な国宝の鳥獣戯画は、京都国立博物館と東京国立博物館に本物は預けられ、石水院のガラスケースにはレプリカが飾られていますが、本物と見間違うほどの精巧さでした。
高山寺山主の小川千恵師による「現代へのメッセージ 明恵上人『あるべきやうわ』」、鞍田崇「高山寺と明恵上人」、高名な歴史学者で京都市美術館長・村井康彦「高山寺『茶の実』考 明恵と栄西」、京都に関する多くの書籍を残している名古屋外国語大学教授・蔵田敏明「高山寺文学散歩」、サントリー美術館学芸員・三戸信惠「『鳥獣戯画』と高山寺」、京都工芸繊維大学教授・日向進「高山寺石水院」、京都大学大学院准教授・大槻信「高山寺の寺宝」という各分野の著名な学者による魅力ある文章が掲載してありますので、読むだけで高山寺の全容が理解できるでしょう。