茶化すことは大切だ
★★★★★
みんなが、大事だからといって口角泡を飛ばして議論していること。
大ブームになってみんなの口の端に登っていること。
みんながってのはどうも変だし、うさんくさいし、
そういう事はつねに茶化さないと、気が済まない。
「茶化せ茶化せ茶化せ」筒井さんの面目躍如。『ベトナム観光公社』
きっと『となり町戦争』も、これから影響受けてるんだろうなあ。
直木賞選考委員からは酷評されたが・・・・・・
★★★★☆
表題作は着想の奇抜と類を見ないナンセンスが注目を集めて直木賞候補にもなった問題作。火星のダカー市へ新婚旅行に行くはずだった主人公はひょんなことからベトナム観光をすることになった。ベトナム戦争は未だ続いていたが、当初の目的は忘れ去られ、ベトナムの観光事業と化していた。主人公たちはベトナム観光公社の装甲遊覧車で茶番と化した戦争を眺めていたが・・・・・・戦争の愚かしさを笑う傑作。
筒井康隆には聖域=タブーは存在しない。筒井康隆は全ての権威を引きずり下ろし、全ての人間を「平等に」嘲笑う。筒井康隆は人間の愚昧と醜悪と狂気を嗤う。そして人間社会を、人類そのものを笑い飛ばす。筒井作品に出てくる人物はみな狂躁的で、主人公さえもその狂気から逃れられない。表面の軽快さとは裏腹に、筒井作品は救いがたい虚無を抱え込んでいる。
この人の発想には一般人を超越しているところがあり、はっきりと好みが分かれる作品だ
★★☆☆☆
私は、これまでに、筒井康隆の主な作品8冊を読んでみたのだが、この人の発想には、一般人を超越してしまっているところがあり、作品によっては、その傾向が、強烈に前面に出過ぎてしまっているのだ。そうした作品は、読者によって、はっきりと好みが分かれると思う。この初期の短編集「ベトナム観光公社」も、間違いなく、そうした類いの作品だ。
この「ベトナム観光公社」には、9作の短編が納められているのだが、いずれも、ナンセンスSF風刺小説といっていいのだろう。ただ、読んでみると、たしかに、全作品に、それなりの風刺を効かせていることはわかるのだが、その風刺の対象は、現代社会のどこにでもある些細なものがほとんどであり、しかも、各作品に、それほど強い風刺が効いているわけでもない。その割には、ストーリーに、「何も、この程度の風刺に、これほど話を大きくしなくても」と思わせるような、突飛過ぎるというか、大袈裟過ぎるところがあり、突飛さや大袈裟さだけが浮き上がってしまい、風刺小説として、こなれていないのだ。
特に、「トラブル」、「最高級有機質肥料」、「血と肉の愛情」の3作品は、作者の見識を疑わざるを得ないような無意味にグロテスクな物語であり、小説の描写としては、完全に、越えてはならない一線を越えていると思う。読んでいて、気持ちが悪くなってくるほどなのだ。私には、この程度の風刺をするために、ここまでグロテスクに書かねばならない必然性が全く理解できない。この3作品については、もはや、風刺小説の体もなしていないと思う。
本物の反戦主義者ツツイ
★★★★★
SFは価値の相対化をはかる文学。
自己矛盾さえ無ければどんな突飛な表現でも許される文学という建前があった。
が、日本SF界にはやはりタブーがあったのだ。
本書は
「いくらSFでも書いてはいけないことがあるのではないか?」
と唾棄された問題作である。
ベトナム戦争を観光として見に行った日本人団体が
戦争に巻き込まれて殺される話である。
殺されるシーンがギャグ調で大笑い出来ます。
筒井先生のギャグはへたなギャグ漫画より大爆笑出来るが、
ギャグとは先鋭化するものである。
戦争を笑いものにするとは何事かという論調があるが、
戦争の悲惨さのみをしかめっ面して語っても、
悲惨はかっちょええ悲壮美に繋がる可能性がある。
戦争さえおちょくってギャグにしてしまう筒井先生は、
本物の反戦主義者だと思う。
初期の最高傑作短編集
★★★★★
収録作は「火星のツァトゥストラ」、「トラブル」、「最高級有機質肥料」、「マグロマル」、「時越半四郎」、「カメロイド文部省」、「血と肉の愛情」、「お玉熱演」、「ベトナム観光公社」。
タイトル作は当時の海外への新婚旅行熱を皮肉ったもので、作者はこうした時代の流行物・既成概念をパロディ化したものを得意とする。だが、一見パロディと見せかけて実は別の翔んだ意図を含んだものの方に傑作が多いと個人的には思っている。「マグロマル」は国際会議を皮肉ったもの。「カメロイド文部省」は既成の道徳概念を嘲笑したもの。「火星のツァトゥストラ」は意図的に伝記を戯画化したもので当時評判となった。「最高級有機質肥料」は言葉では説明できないもので読んで頂くしかない。そして何といっても「トラブル」である。一応、人間社会の中での階級闘争というテーマはあるものの、それは発端に過ぎず、後はナンセンス・ドタバタがエスカレートし続け、最後までノン・ストップの面白さである。私は読みながら笑い転げてしまった。作者の短編の中でも一、二を争う傑作だと思う。これから、本短編集を読む方、幸せですねぇ。