松本清張生誕100年記念復刊 晩年の短篇集!
★★★★☆
社会派ミステリの巨匠、松本清張の晩年の短篇集。『隠花の飾り』という題名の短篇小説を収録しているわけではない。全体のイメージを象徴した表題のようだ。それぞれが原稿用紙30枚程度の長さ。さまざまな影のある女性を描いた11の短篇を収録する。
初期の輝かしい短篇群のような着想の卓越と切れ味の鋭さには欠けているかもしれない。だが、ディテールの書き込みのねちっこさと辛口の人間観察は、いかにも松本清張らしい筆力を感じさせる。腐っても鯛なんて言っては失礼か。おとなの読者には一読の価値があるだろう。
集中、私のベスト3を挙げるとしたら、「足袋」「愛犬」「再春」だろうか。どれも広義のミステリの範疇に入れてよい作品だと思う。他に、サマセット・モームの短篇に似た味わいの「北の火箭」も印象に残る。
このたび復刊された第24刷で、巻末に阿刀田高の解説が加わった。実作者の側から読み解いた分析は示唆的であり、読みごたえがある。しかし、じつは、阿刀田さんの近著『松本清張を推理する』(朝日新書)の第11章とほぼ同じ文章ですね。読者をなめているのかしら。そのことについてひとことも触れていないのはいかがなものか、という気がしないでもない。