史眼とミステリーの見事な融合
★★★★★
松本清張さんの史眼とミステリーが見事に融合し、結実した、粒ぞろいの傑作短編集です。
「巨人の磯」「東経一三九度線」は古代史、「理外の理」は江戸趣味がよく生かされていると思います。他の2篇、すなわち「礼遇の資格」「内なる線影」には歴史ものの要素は出てきませんが、トリックにも、ストーリーテリングにも、清張さんらしい一流の腕が光っています。
バリエーションに富み、1970年代前半という清張さんの作家人生でももっとも充実した時期に書かれた作品を集めた1冊として、他の新潮文庫よりも僕はこの1冊を推したいくらいです。
もちろん「社会派」としての顔もいつもどおりで、昭和史のスケッチとして読んでも興味深いものがあります。おすすめします。