地質学には素人のぼくでも、ときどきそんなことを考える。そして、この本を読んだ。地質学のものの見方や考え方のおもしろさ、楽しさが堪能できる1冊である。
著者はまず、四万十帯や黒瀬川構造帯など、不思議な地質構造を持つ地帯の謎を提示する。そして、その謎を解くための仮説やデータを示しながら、著者の考え方を明らかにして行く。その進め方は、推理小説を読むような楽しさがある。地質学者はこうやって、大地に残された一片の石や、地層の断面から大地の不思議を解明しているのだろう。その楽しさの一端を味わうことのできる、とても面白い本だ。
だが、日本列島とアジア周辺の大地の成り立ちを探るという、地質学でも最前線の仕事を紹介しているだけに(特に後半は)、門外漢が簡単に理解できるような内容ばかりではない。この本が出てすでに15年経っている。研究もだいぶ進んでいることだろう。よりわかりやすく、そして、最新の研究成果に基づく第2版か、新たな出版が望まれる。
科学書としては、やや主観的で物語調の書き方になっているが、それは難解な理論をできるだけ面白くわかりやすく表現しようという親切な配慮からのことと考えたい。
ただ、その心配りをもってしても本書の理解は必ずしも容易でない。私は二回ほど通読したが、満足のゆく理解は得られていない。しかしそれは著者の責ではなく、日本列島の形成がきわめて奥深い複雑でダイナミックな過程を持つからだと私は解釈している。すなわち簡単に結論できる薄っぺらい学問ではなく、無限の可能性を秘めたすばらしい研究対象であるということだ。
日本列島のすばらしさを教えてくれた著者に感謝しつつ、私は期待感をもって三回目の読書に入る。