研究当事者の熱い思いは感じるが
★★★☆☆
本書の前半は、海底を掘削して得た岩石の研究からどのようなことが分かってきたかなど地球科学の入門書的な内容であるが、目新しいことはあまりない。後半は、このような研究を行うため、日本が中心となって行う巨大科学(プロジェクト)の紹介。でも、この部分はこんなに長くなくてもよいのではないかと思う。当事者が書いているうちに熱くなってきたらしいことは分からないではないが。
巨大プロジェクトの内部で何が起こっているのか
★★★★☆
っていうタイトルの方がよりふさわしい。
だって後半はほとんど地球の話はそっちのけで、将来のプロジェクトの話ばっかりなんで。
それはそれで面白いんだけど、現在までに地球についてわかっていることを簡潔に知りたいなら別の本を読んだ方が良いと思う。
入門として
★★★☆☆
地球深部探査船「ちきゅう」の誕生を契機にして,現在までに分かっている地球内部の構造・働き,現在までの研究の歴史,これからの研究の進展行方等を解説する本でした。
イメージとしては,地球内部をテーマにした博物館に置いてあるパンフレットといった感じです。地球構造について何も知らない初学者でも分かるように平易な言葉,豊富な図説,用語解説を用いています。
ただ,学者の書いた解説ですので,読ませる文章ではありません。そのため,このテーマについて興味のない人には全然おもしろくないかもしれません。観光地を訪れたら,たまたまあったので入ってみた博物館等で,もらうパンフレットのように本棚に置きっぱなしの可能性があります。
反対にある程度の知識を持った人には知っていることばかりで物足りない可能性もあるかと思います。私も,ところどころで新たな知識を発見できましたが,たいていのことは再確認といった感じでした。
なかなか読む人を限定してしまう本かもしれません。
入門としても、リクルート本としても良くできています
★★★★★
最新ニュースから書き起こした興味ひかれる導入部、研究の経緯と成果を概説する前半部、システムとしての地球を総括する中盤、そしてメインである深海掘削の重要性を説く後半まで非常に読みやすい。広く地球科学と呼ばれる複数の分野の研究成果がまとめられているが、巻頭にあるカラー図版と、本文中に織り込まれるモノクロ図版が適度な分量で理解の助けになり、難解な部分はない。巻末の用語集と、コメント付きの参考文献の充実も入門者用には親切だ。内容として特に感心したのは実験の研究課題の審査方法や、実験船の建造運営、実験船搭乗者の選出など研究推進体制を研究者が自ら組織化している点だ。今の研究者というのは大変だ。
自然科学ではその成果が一般に還元される形がわかりにくい。したがって研究資金を集めるのが大変だ。特にビッグサイエンスと呼ばれる巨額の資金が必要な分野ではそれが顕著で、はやりのバイオ分野などに比べると台所は苦しいと聞く。そこで本書のような一般向けの啓蒙本では研究内容とその意義を大衆に分かりやすく説明して理解して貰うことと、同時に研究者予備軍となる若者をリクルートする事が重要になる。
こういう目的を意識しすぎると本の作り自体がいやらしくなってしまうのだが、本書では第一線研究者のショートエッセイを交えたり、宇宙開発における米国の主導的役割を海洋掘削における日本のそれになぞらえたりして、研究活動のアグレッシブさをうまく印象づけている。巧妙、周到に作られている入門本だ。
地球の謎に迫れそう
★★★★☆
三菱重工の長崎造船所(橋が通れないので湾口の香焼工場とのこと)で建造されているのを見て以来、70mという巨大な櫓を持つ地球深部探査船「ちきゅう」が何のための船か興味を持ってきた。この本はそのような興味に答える本である。
記載されているのは、地球物理学?の進展と新しい地球観、「ちきゅう」のミッション、「ちきゅう」が解決すると期待される謎(日本海誕生のメカニズム、巨大地震発生のメカニズム、地下微生物の実体、海洋地地殻とマントルについての更なる理解)、と大まかに言えばこういったところであろうか。
ただ、この本はこういうこと以外に随所に新しい知見がちりばめられており、地球史で起こってきたことは必然でなく、実はいろいろな偶然を前提とした各種の相互作用によって生じたことが示され、地球上の現象で何一つ無関係なものはないのではないかという気すらしてくる。
「新しい地球観」(上田誠也)、「全地球凍結」(川上紳一)、「プルームテクトニクスと全地球史解読」、あるいは松井孝典氏の著作あたりに興奮した人は必読であろう。ただ、正直に言えば、「ちきゅう」のミッション決定プロセスに関する記載はやや退屈かもしれない。