ベ-ト-ヴェンの「三重奏曲」は、演奏家の高い資質と演奏者間の親和力が求められる難しい曲である。しかし、3人の巨匠は技術的難関をいとも軽々と乗り越え(というより、意識もせずに)、曲を楽しく、明かるいものにしている。リヒテルのピアノは軽やかに波立ち、ロストロポーヴィッチのチェロは美しくうたい、オイストラフのバイオリンは陶然と空を舞う。胸が高鳴るほどに美しい音である。フィナ-レは物憂く、可憐で、叙情的で、ユ-モラスだ。独りさえずるバイオリンをよそに、しばらくは低い声でじゃれあっていたチェロとピアノが、やがて大笑いの終章に向かって声をあわせていく。
ブラ-ムスはおおらかで、夢のように光あふれ、まばゆい。黒いビロウドの温かさで、ゆったりと心なごむフィナ-レへと向かう。オ-ケストラは決して独奏者に覆いかぶさりはしない。しかし、トゥッティ(総演奏)の時には爆発するから、特にベ-ト-ヴェンでは、音量ボタンから指をはなさないほうがいいだろう。(Edith Eisler, Amazon.com)