レビューなら面白いことを書けよと思いますが・・・
★★★★☆
この本のハードカバーを読んだのは17,8の頃で、それまでにSFといえばアイザック・アシモフぐらいしか読んだことの無かった私は衝撃を受けたものだった。
その当時ライトノベルと呼ばれる分野が急激に発達・深化(あるいは劣化)し、その先駆け的な立場にあった作者達が書いた本はその波に淘汰されつつあった。
私はそんな商業主義によるオタク化が嫌で、他のレーベルに「子供や学生が楽しめる分野」を探し求めたものだが、そんな時にであったのがこの一冊だ。
作者は戦闘妖精雪風や七胴落とし、敵は海賊シリーズの神林長平である。
彼の人の著書には精神が現実に介入する内容が多々見受けられるが(読むのが面倒になることもあるほどに)、この本に関してはそれが実に面白い方向に働いている。
サイファと呼ばれる、五感以外の入力と筋肉以外の出力の力を持つ生き物の存在。
動き出す内臓や、脳以外の部分で思考を始める人体。
読めば読むほど、精神とは肉体全体に宿るものではないか、と自発的に「考えたくなる」。
実際のところ、私はこの本から多くのものを受け取った。
卒業論文に関する知識を育てる下地にも一役買っているはずだ。
面白く、タメになる本。お勧めの小説の一冊だ。
神林ワールド入門に最適な秀作
★★★★★
レビュータイトル通り、神林長平先生の作品に興味を持たれたなら、まずこの作品をお薦めします。
アニメ化された『戦闘妖精・雪風』シリーズや、看板作品である『敵は海賊』シリーズは、
ネームバリューはありますが、神林作品としては、かなり敷居の高い作品でもあります。
いきなりそちらに手を出すより、この作品で神林ワールドに慣れてから、それらのシリーズに
手を出してみてください。
また、『雪風』などの作品で『神林作品はちょっと……』と思われた方にもお勧めします。
神林作品の中では、かなり読みやすい作品ですので、本作でリハビリしてから再挑戦してみてください。
きっと、新しい発見があるはずです。
さて、本編の主人公である『セプテンバー・コウ』こと『菊月虹(きくづき こう)』ですが。
流石神林氏と言うか、ひねていると言うか。王道から少し外した所を狙っています。
見かけは四十路の中年男。特に美形でも不細工でもなし、ついでに社会保障も金もない自由人。
しかし彼の正体は人造人間であり、最強のサイファ(超能力のような物)でもあります。
これだけだと『超能力でバリバリ戦うサイキック物』と勘違いされそうですが、違います。
むしろコウは、『サイファの能力は人間が進化する過程で捨ててきた能力』だと言ってはばかりません。
また『この能力のせいで余計な面倒を背負う羽目になる』などと愚痴る場面もあったりします。
ただ、かと言って、サイファの力を忌避している訳でもありません。
『尻尾のような物』などと自分の能力を評価していて、
『とりあえず持っていたから使っている』という感じで、
サイファの力を誇るでもなく貶すでもなく、ただいつも自然体で過ごしています。
ただ、その『自然体』というのが、『家賃や映話代が払えるか』や『今日の目標は焼きたてのパンを買う事』
などという、非常に庶民的と言うか、貧乏くさいと言うか。非常に神林的な主人公です。
尤も、こんな事を書いていますが、私はコウの大ファンで、『こんな中年になりたいな』と常々思っています。
本編を読んでみたら分かってもらえると思いますが、格好良いんですよ。貧乏中年のくせに。
また、彼を取り巻くレギュラーキャラも個性的な面々です。
コウの『兄』であり『女性』であり『年下』という、何のこっちゃ?と首を捻りたくなる
設定の持ち主である、『MJ』こと『メイ・ジャスティナ』及び『五月湧(さつき ゆう)』。
コウを臨時雇いしては、サイファや大企業絡みの捜査をやらせる、底の見えない男、『申大為(しん たいい)』。
正義感の強い新米刑事で、なまじ有能だったが為に、コウや申大為に気に入られてしまうという、
ある意味この作品で一番不幸な青年『タイス・ヴィー』。
どのキャラも、具体的な容姿の描写は殆ど無いにも関わらず、何となくビジュアルが浮かんでくるのが不思議。
これも、神林マジックのひとつですね。
視点を人物から作品背景に移します。
まず、この作品のバックボーンとして、『ライトジーン社』と『臓器崩壊』が挙げられます。
『臓器崩壊』とは、人間個体の部位が、勝手に個々に機能を停止してしまう、という奇病です。
この奇病は世界的な規模で起こっているもので、誰もが臓器崩壊を起こす可能性を抱えています。
今は対症療法として、人工臓器が代用品として使用されている、という状況です。
『ライトジーン社』は、その当時では最も優秀な人工臓器メーカーであり、コウとMJを造り出した企業です。
元々この二人は臓器崩壊の研究過程で生まれた存在で、そんな彼らがサイファの力を持っている、
と判明した時、何らかのアクションを起こして結果、取り潰されました。
ただ、ライトジーン社の人工臓器製造技術と、コウとMJという人造人間が、遺産として残されました。
タイトルの『ライトジーンの遺産』とは、恐らくこの二重の意味を込めた物なのでしょう。
ページも多く、また内容もボリュームがある作品ですが、意外とさくさく読めてしまいます。
『ヤーンの声』のコウではありませんが、ゆっくりできる余暇に、お茶かウィスキーをお供にして、
ページをめくっていっては如何でしょうか?
最後に余談ですが。
ソノラマ版の表紙と違って、こちらは何となくコウのイメージに近い男性がいるのは喜ばしいのですが。
その上に描かれているのはMJでしょうか?
何だかこの構図だと、MJがヒロインみたいですねw
表紙の人は誰?
★★★★☆
1997年に出た単行本の文庫化。
神林氏らしいハードSF。良く練られているし、設定も見事だし、アイディアも凄い。迫力のある筆致で、600ページ以上を一気に読んでしまった。
腕、心臓、眼、皮膚、骨、声、卵と、人工臓器の話を7つ集めている。短編のゆるやかな連作というところか。いずれの話も思いつく限りの奇想が詰め込まれており、圧倒される。全体を貫く主人公もちょっとひねった設定にしてあってさすがと思わされる。
それにしても、身体の臓器がある日突然役に立たなくなってしまう「崩壊の世界」は不気味。人工臓器の手術の話などは鳥肌が立つほどだった。
ところで表紙の絵は誰を描いてるの?
ACか?
★★★☆☆
この本は、酒の描写と都市社会の描写のすごさに尽きる、とにかく主人公の酒に対する愛着の描写を読むと、少しお酒がほしくなるw、また社会層が分かれた世界、二面性を持つ都市などのかきかたは物語をより一層美味しく引き立てる。上林氏らしいのは、超能力をただ超越的なものでなく、科学によって作られ、限界があるということ書いてあるところか・・・・
余談だが、AC(アーマードコア)の世界観に通じるところがある。
人工臓器の物語
★★★★★
主人公の菊月コウはサイファである。サイファとは広義には超能力者のことだが、狭義には人造人間のことである。そして狭義のサイファは二人しかいない。菊月コウと、メイ・ジャスティナこと五月湧である。かれらはすでにないライトジーン社によって人工臓器の研究のために開発された。
強力な超能力を持ちながらも、かなり庶民的な、というより社会の底辺でやっとのこと暮らしている主人公が人工臓器による事件を解決する連作小説。一話一話でしっかりまとまっている。著者のほかの感動大作と比べると感動の度合いは低いが、その分わかりやすい(といっても終わりが見えるのではない)作品で、楽しめる。