モームの真骨頂
★★★★★
モームは生前、小説家、劇作家として大成功した人だったのですが、2−3の最高傑作といえる作品を除いては、それらのフィクションは少し色あせたものになってきている感があります。 しかし、こういった評論、エッセイの類では彼の冷徹な観察眼による考察はいまだ不滅の輝きを失っていないと思います。 何よりこれだけの分量でありながら、本当に何度でも読み返してしまう抜群の面白さがすばらしい。
“バルザックは作家として天才だったが、人間としては破廉恥な男だった”という歯に衣着せぬ発言や、“ドストエフスキーの作品の最良の部分は彼の人間性の善からではなく悪から生まれている”というドキッとするような鋭い観察が見事です。 この下巻では、辛辣なユーモア作家でもあるモームが、“もし、10人の作家たちがパーティで一同に会したら?”という小噺を披露していますが、これは抱腹絶倒の面白さ。 本当にそれぞれの作家の人間としての特徴を掴んでいなくてはこんな話は書けないでしょう。 これはモームの書いた数多くの文章の中でも傑出した一篇だと思います。