暗号の概要、RSAの基本理論を知るのに有用な本
★★★★☆
一松先生が暗号の基礎について、その起源から最新の量子暗号(改訂版で追加)まで平易に解説した本。ブルーバックスと言う性格上、数学的厳密さの追求よりも、読み物としての楽しさに重きを置いており、入門書として適している。公開鍵暗号の説明以外では数式が出て来ないよう配慮されている。漫画チックな挿絵も豊富。
まずは、歴史的観点での暗号の必要性や平文・暗文などの基礎知識が説明される。続いて、換字法等の初歩的な暗号化方法が説明される。ここで、ポー「黄金虫」、ドイル「踊る人形」、乱歩「二銭銅貨」が紹介されており、サービス振りに感心させられる。また、現在でも詳細が不明なエニグマについて、推論だがと断って、数頁に渡って説明があるのは珍しく貴重。この中で乱数の話が出て来るが、「人間乱数」の話題に触れるなど、一松先生のユーモア精神が感じられる。
共通鍵暗号についての詳しい説明はなく、いきなり公開鍵暗号の説明に入る。Diffie-Hellmanの名前が冒頭に出て来るが、楕円曲線暗号には触れず、説明対象はRSAである。ここで、非常に大きな整数の素因数分解の困難さと公開鍵・秘密鍵の概念が説明される。2つの異なる鍵(一方は公開)を使って暗号化・複合化が可能な理由とその具体的方式が数式を使って説明される。ここの説明は厳密なので、RSAの理解に役立つと思う。1980年版では、RSAの有効性は認めながらも、(大型)計算機能力との対比で有用性には疑問を残す形で終っていた(現在ではPCでもRSAは使われている)。改訂版では更に最新の量子暗号の概要を説明して終る。暗号の概要を知るにも、RSAの基本理論を知るにも有用な本。
暗号の巧妙さを実感できる内容
★★★★★
今まで読んできた暗号に関する本の中ではダントツにわかりやすかった。内容は決して易しくはないと思う。特に後半、現在インターネットなどの通信に利用されている、素数の素因数分解に基づいた数学理論の説明などが出てくるあたりは、じっくりとかみ締めながら読み進めないと暗号の素晴らしさが理解できないと思われる。
しかし、それでも尚「わかりやすい」というのは、難しい箇所でもコレだけは理解して欲しい、という筆者のエッセンス抽出の仕方が非常に優れている点にある。上っ面だけを撫でていく「暗号の歴史」や、理論メインの「情報数理」に終わらず、非常にバランスの良い内容になっていて、読んでいてワクワクできる内容だった。特に公開鍵暗号の理論を、フェルマーの小定理の説明からはじめ、易しく・詳しく説明している本は他にないと思われる。暗号理論に興味のある方は、まずは本書から!
現代最強暗号の原理
★★★★☆
書名の「暗号の数理」を最小限のスペースで説明してくれいます。
前半では暗号の種類とその実例を、歴史的な話題を交えつつ語っており、後半では現在最強の暗号であるRSA暗号の原理、そして量子コンピューターについて語っています。
後半は原理の説明に数式が出てくるので、数学・数式が苦手な人には苦痛な感じかもしれません。ただ、この内容のことを数式なしで語る方が、暗号の概念的な話にとどまり「数理」を語ったことにはならなくなると思います。
また、今となっては、暗号の歴史やその説明についてはサイモン・シン著「暗号解読」が非常に素晴らしいので、この本の価値は「暗号の数理」を語っている後半にあると改めて感じます。
一松先生らしく、誤解の無いようにされている説明は数学者らしさを感じます。そして確実な理解を促すような構成となっており、読んでいて小気味良いです。
数式を交えてますが、現代の暗号の原理を理解する上では、上記の「暗号解読」よりも良いと思います。
難しくて降参
★★★☆☆
前半は暗号にまつわる歴史、エピソードが中心だがポーの黄金虫の引用にせよ実例をあげずの解説で不十分でわかりにくいし興趣に乏しい。後半は、現代の暗号技術の概説だが難しい。他の本で、まがりなりにも整数論や公開鍵の仕組みを理解したつもりだったがそんな生易しいものではなかった。ながながとした説明はわずらわしいだろうとの著者の気遣いなのだろうが、例題もない概念説明は専門用語や概説的記述ばかりで歯が立たない。かなり整数論の知識がなければ無理だろう。だけど知識があるひとがこの本を読むだろうか。学術論文のシノプシス集のような本。「猿にもわかる…」式の本を期待した自分が甘かった。
暗号とは何かを知る一冊
★★★★☆
その名の通り“暗号”に関する本である。とはいっても、本書の主題である“暗号の数理”について、数式を用いて説明しているのは後半の5、6章ぐらいである。その他1~4章は、「暗号に係わる話」や「暗号とは何か?」、「暗号にはどんな種類があるのか?」といったことを実際に暗号が使われた話などを例に説明している。
さて、本書の主題である“暗号の数理”について数式を用いて説明しているのは、先にも書いたが5、6章である。5章はRSA暗号などの公開鍵暗号、6章は量子暗号について説明している。正直、この5、6章は難しいと思われる。5章は整数論に関する数式が展開され難しい。だが、じっくり読めば数学に苦手意識が無い人ならばなんとか理解できると思われる。6章は量子暗号ということで、そもそも量子力学が難しいので簡単に理解できるはずもない。だが、量子力学について定性的でもよいので知っていれば、「量子暗号がどんなものか?」といったことは比較的簡単に理解できると思われる。
確かに、本書の数式を理解するのは難しい。しかし、様々な暗号にまつわる話を知るだけでも、本書を読む価値は十分にあるのではないだろうか?現在は、暗号という技術が注目される時代である。そんなに時代において、暗号という技術に目を向けるには良い一冊だと思う。