難解な物理学用語は、すっ飛ばして読め!
★★★☆☆
大ヒットドラマの原作本として再出版された本作。
巻末には「訳者あとがき」でドラマについても触れられ、原作者のソウヤー氏が、ドラマにカメオ出演したともあります。
この原作本とドラマでは、タイムスリップした時間設定がだいぶ異なりますし、原作本には登場しないFBI捜査官がドラマの主人公となっているので、この原作本を読んでも、ドラマを見る楽しみが半減することは無いでしょう。
また本文中には、難解な物理用語や物理理論も出てきますが、そこを飛ばして読んでも問題は無いと思います。
原作本の主人公の一人、ロイド・シムコーの恋人が、ミチコ・コムラという日本人エンジニアだという点は、日本人読者には少し嬉しいポイントかもしれません。
果たして未来は変更可能なのか、それは読者に託される
★★★★★
2009年4月、ヨーロッパ素粒子研究所(CERN)で、ある大規模な実験が行なわれる。その瞬間に全世界の人々の意識が数分間だけ21年後の未来へと飛んでしまう。
研究所の科学者であるロイドは、今の婚約者ミチコとは似ても似つかぬ女性との未来の生活を目の当たりにした。ミチコはといえば、今はまだ生まれていない自分の子どもをみつめている自分を発見する。
一方、ロイドの同僚であるテオは、何ひとつ未来の自分を目にすることはなかった。それは21年後のその瞬間の直前に、彼が何者かによって殺害されていたからだった…。
未来の自分をほんの一瞬だけ見てしまったとき、そしてそれが決して自分が期待するようなものではないと分かったときに、ひとはどういう行動に出るのでしょうか。
未来は固定されて決して取り替えがきかないものであるのだから、これからの努力が実ることは決してないと諦念を抱くのか。
それとも目にした未来はひとつの可能性でしかなく、これらからの行動次第でいくらでも変更がきくのだと考えて、より良い未来を志向して努力を継続するのか。
タイム・トラベルSFではタイム・パラドクスをいかにキレイに整理できるかということが常に課題となりますが、このSF小説ではそれはあまり大きな問題ではないような気がします。
むしろ、「諦念」と「努力」のはざまで、登場人物とともに読者自身がどちらを選択するべきなのか、その解を求めることこそが一番の課題のような気がします。
ロイドとテオという主要人物二人に対して作者のロバート・J・ソウヤーは、「諦念」と「努力」それぞれにふさわしい結末を与えます。それを読んだときに何かが自分の中で生まれる気がする、そんな物語として私は十分堪能することができました。一気呵成に読めるエンターテインメント小説ですが、それだけのものとするには惜しい気がする一冊です。
深いです
★★★★★
最近再読しました。
おもしろい!1回目の印象より、深いです。
2001年にこの本を買って一度読んだときは、ふーん、科学実験の事故で意識が未来に
飛んじゃうんだ。普通にSFしてておもしろいね。って感じでした。
5〜6年経って、1読目よりはそれなりに人生経験を積んでから読んだら、
今回は、主人公たちの立場になって考えていろいろ考えさせられました。
最愛の人の娘を自分が指揮した実験が原因で亡くしてしまう。あるいは
自分が殺人事件で殺されることを知ってしまう。夢がかなわないことを知らされてしまう。
もし仮に自分がロイドの立場だったら、テオの立場だったら、
ミチコの立場だったら、とかいろいろ考えちゃうとSF的にだけじゃなくて
人間ドラマとしても深いものがありますよ。
事件の発端になってるヒッグス粒子も現在の時点ではまだ見つかってないようですね。
舞台になってるCERNのLHCって装置は今年から実験始めてるみたいで2009年までには
発見されるかもしれないですね。
ところどころに散りばめられてるミニ未来予想図もおもしろいです。
とくに2019年にアメリカの大統領がアフリカ系アメリカ人の男性だが、女性の大統領はまだでていない、とかの予想。
ソウヤーさんの予想は当たるのかな。外れるのかな。
交流理論の面白さだけでも、読む価値はある
★★★★☆
量子力学SFと言うと、コペンハーゲン解釈に基づき、
並行世界の存在を認めるものが多いが、
本作はそれに反論する交流解釈が語られ、
私は胸の痞えが降りました。
「宇宙消失」に怒り狂った人は是非とも本作を読んで溜飲を下げて欲しい。
宇宙は唯一つしか存在しない。
観測者が観察出来る未来は、過去と同じように既に決定されているのだ!
主人公の科学者(理論担当)は、人間に自由意志なんて存在しないと
言いきってしまう。
別の選択の未来なんて存在しない。
唯一の未来に向けて、既に決定している選択を体験するのみであるのだ。
そんな主人公がヒッグス粒子発見の為に、
高エネルギーを発生させたその時、
世界中の人類の意識は21年後の未来の自分に
転移されていた。
2分弱で、現代に意識は戻るが、
飛行機、自動車等を操縦していた者は、
現代に帰った時、多くの者が事故死した。
現代に観察者がいたとしたら、全ての人類が2分間気絶したように
見えたであろう。
主人公は現在ラブラブファイヤーしている日本人娘と
結婚してない未来を体験してしまい、とまどうが、
生きていたのでマシである。
もう1人の主人公(金物担当)は、
未来のビジョンを見ずに、単に気絶しただけである。
そして、彼が殺害された未来を見たものも現れた。
未来は変更可能なのか?否か?
良いです
★★★★★
未来が見えたら…というのはよくありますが、それが一瞬だけだったらどうなるか。
一瞬でも「見る」ことによって、世界の把握がそれまでと大きく変わってしまう、というアイデアは根本には量子力学があるのでしょう(実際作中でも触れられていますが)。けれど、別に知識は必要ありません。作品自体はシンプルなサスペンスと、内面の葛藤によっています。
シリアスですが、思わせぶりな重厚さを演出することもなく、良い小説を読んだなあという気にさせられる作品。