本書は編者自身が冒頭に書かれているように、「ガイドブック」であり「指南書」を目指したものです。いわゆる「初心者」「初学者」を対象とした「ガイドブック」はある程度の中庸と公正性が必要と考えますが、本書は強く書き手グループの主観が滲み出ており、入門書としての適正を失っていると考えます。すなわち「日本のODAは悪」「諸外国からの商業投資は、民衆を搾取するもの」という価値観です。これらの問題をもし「ガイドブック」にて議論するなら、その時々の日本国家に課された問題、地政学上のパワーバランス、ODAや投資による、出し手と受け手との双方にとってのメリットとデメリットなどを公平に議論の土俵にのせるべきと考えます。
この点から「物」を視点とした大変わかりやすいユニークな手法と、いくつかの秀逸な章がもったいなく感じました。
27章「おみやげ」、29章「ゴング」、30章「カセット」、40章「ジーンズ」などは、独裁と汚職から経済破綻した未開の後進国「インドネシア」に、本当は多くの日本人と同じような生活も存在していることを垣間見させる秀逸な文章と考えます。
なお、国もそこに生きる人も常に変化しており、これらを文字に書き留めた瞬間から過去を対象とした記述になることはやむ得ないことです。残念ながらジャカルタでは髪を茶色に染めた女性も珍しくなくなりました。