最初は難しく感じましたが、読み進むに従い、著者の目を通した日常が静かに美しく、あたりまえのように描かれ、それでいて芯のある文体、内容で、ゆったりした読後感を味わうことができました。
人に進められ、こうした随筆集もほとんどはじめて触れるもので、また著者についても初めてであった本でした。日本の文学もいいものだと思いました。

　吉村昭氏は現在、恐らくこの国で最も穏やかで美しい日本語で小説や随筆を書く文筆家だ。本書は取材現場、執筆現場、時には町の居酒屋のカウンター席で、吉村氏が出会った人々や事柄を素材にした随筆集。人情の機微にふれながら、真実・史実に忠実な作品を多く著している吉村氏の人柄がうかがえる格好の一冊だと思う。表紙カバーもあっさり美しく仕上がっていて好感が持てる。