クラシック。
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この作家の名前を知っている人は少ないかもしれない。だが、彼は現代における幻想小説、いわゆるファンタジーに多大な影響を与えた人物である。クトゥルー神話のラブクラフトや指輪物語のトールキンにも影響があったとされている、偉大な人物だ。
そんな彼の小説が文庫で新装で出ていて普通に読む事が出来るというのは本当に貴重で、素晴らしい事である。河出文庫の英断だろう。また翻訳の文章も素晴らしく、挿絵なども非常に気が利いており、極めて完成度の高い文庫となっている。
この作者の著作の特筆すべき点として、自分で世界を作り上げてしまった事がある。世界の始まりから神々の誕生、人間の営みに至るまでその領域は広いが、全て完成された美しいものだと言える。特に今刊に収録されている神々と時に関するものは、その卓越した作品性から後のファンタジーに多大なる影響を与えたものである。
今、世にはファンタジーもどきが溢れている。無論その中にも傑作は存在するが、そもそもの源泉を知らないというのは不幸だと私は思う。これはトールキンの指輪物語より古く、また読みやすく、さらに大人向けでもある。つまりクラシック、古典になりえる数少ない現代ファンタジーなのだ。
幻想小説やファンタジーが好きなら、まさに必読である。
神話世界空間の創出者
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ラブクラフトにも影響を与え、トールキンよりも古い作家であり、独自の世界観を持った神話の創出者である。荒俣宏のペンネーム「団精二」のもじりの元であることで知った次第。。
前半は彼の神話に登場する神々の紹介とエピソードの断片が連なっている、正直言ってやや退屈な内容である。しかしギリシャ神話が生まれる前から存在する眠れる唯一神「マーナ」のもとで、「運命」と「偶然」が行ったサイコロゲームの結果、生まれたのがすべての神々や動物、人類であるという設定。あらゆる物をむさぼり食う「時」と言う存在のほか、「昼」「夜」「生」「死」などに人(神)格が与えられ、神々との興亡が語られるなど、スケールの大きなペガーナの神の世界に驚かされる。
解説では命名や言語までにもこだわったトールキンに対してダンセイニは配慮がないと言うことだったが、神話空間を創出したこと自体が画期的なことだと思う。いったん読み終えた後に再度精読したくなるタイプの内容だ。
後半はショートショートと言える作品まで含む短編集であり内容は雑多であるが、サキやジェイコブスなどイギリス怪奇小説の流れを汲む物と感じられる。