喚起される
★★★★★
ヴァルファールトという1台のピアノと、そのピアノに関わる人々の数奇な運命。
それら各々のエピソードが、絡まりあって展開しながら、100年の年月と、世界を股にかけるスケールでもって語られてゆく。
物語が最後に辿りつくのは、あのシンプルで優しいメロディの最初の一音。
絵は無骨だし、語り口は訥々としていて饒舌なところなど皆無だが、その分、表現が研ぎ澄まされているので、読んでいてイマジネーションを大いに喚起される。
とても素敵な映画を観た気分になれる作品。
2007年暫定ベストワン
★★★★★
独自のマンガ世界を確立している島田虎之介の最新長編です。
シマトラの真骨頂たる大ボラ吹きは本作でも絶好調です。
アフリカの大木から作られた百年前のピアノをめぐる突拍子もない物語が、
流れるようなリズムで展開していきます。
突拍子もない、と書きましたが、嘘とも史実ともつかないエピソードを織り交ぜるシマトラ得意の
手法によって何の抵抗もなく物語の世界に没入させられてしまうのは前二作と同様です。
2002年日韓ワールドカップをからませるところなど、史実の選び方も絶妙です。
ピアノ調律師(『東京命日』のなっちゃん)やイラン人の大工、カメルーン人呪術師など、
多彩な登場人物も魅力的ですし、以外なところにおなじみのキャラが「カメオ出演」しているところも
ファンにはたまりません(手塚治虫的手法?)。
映画的なコマ割りは円熟味を増して、前二作よりもシンプルな物語構成となっているので、シマトラ入門編
としてもうってつけだと思いました。
なだれこむような結末とその後の余韻の美しさは、思い返すだけで胸が熱くなります。
2007年暫定ベストワンを宣言してもおおげさではない作品でしょう。
次の作品が出るまでまた二年待たされるかと思うと悲しくなります。
卓越した構成力
★★★★★
第1話を読んだ限りでは、ストーリーは全くもって分からない。
が、断片的に話が進んでいき、最終話で全てが解決したとき、読み返すと1ページたりとも違和感のない流れに驚いた。
島田寅之介さんの作品の中でも、分かりやすく、これは傑作と呼んでいいと思います。
ワタシのいない時と場所
★★★☆☆
はっきり言ってしまえば内容なんてない(筋があるわけではなし、ドラマがあるわけでもなし、一台のピアノにまつわるエピソードをいくつか作って寄せ集め、こういうことがありましたって見せているだけですから)。
扱っているスケールに感心するぐらいでしょう。
ただ、そのスケールをみせる意義は確実にある。
ワタシのいない時と場所の存在を島田虎之介作品は教えてくれる。
ある出来事を切り取るだけである通常の物語からは得ることの出来ない感覚。
宇宙は全てを受け入れているんだな〜。