確かに素晴らしい作品ですが・・・
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確かに素晴らしい作品ですが、作者の他の作品に比べて、毒が少なく常識的な面が強く出ており、印象が弱い感じがします。
多くの人に共感を呼ぶ作品を狙ったのでしょう。
その狙いは当たっていると思いますが、作者本来の「ピリ辛」風を好む読者としては、
書評での期待が大きかっただけに、いまひとつの感がなきにしもあらず。
佳作であることは間違いないですが、ちょっと中途半端な印象も伴いました。
もう少し「突き放した」描写が、この作者の持ち味だと思っていますが、偏見かもしれません。
過去・現在・未来の私やあなた
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『極楽ミシン』に続いての近藤作品はこれを読んでみました。
日本の至る所にありそうな町、見晴らしガ丘に住む老若男女のお話です。
要領よく華麗に生きている人間は一人も出てきません。
過去に悔いを残している人、なかなか大人になれない長男、夫に不満のある主婦、婚期を逃しつつある女性、ふがいない子供を見守る親たち・・・みんなどこか過去の自分や、自分の周りの人に重ね合わせて読むことができるのです。そして、ご老人の登場する話では未来の自分の片鱗を見る気がします。
身につまされるお話も、近藤先生の絵と、読者を追い詰めない「遊び」のあるセリフで、「そんなあなたでいいんだよ」と言ってもらっている気持ちになれます。
原点
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郊外の町、見晴らしが丘を舞台にした読み切り集。
私が持っているのは、マンサンコミックの古〜い単行本ですが、
こうして読み継がれてゆくのは嬉しいかぎりです。
近藤ようこさんの、人間を見る目にはいつもヤラレます。
地味な画風だけれど、ちゃんとそこには血肉が通っていて、
一人ひとりに人生があり、きちんと時間が流れている気がします。
ナマでシビアだけれど、ときどきほろりとさせられたり、
ほっこりとした気分にさせてくれたり…、稀有な作家さんの、原点ともいえる作品です。
見晴らしガ丘にて完全版
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本書は、昭和五十九年から六十年にかけて週刊漫画サンデーに連載された全十四話を一冊にまとめたものである。以前にも同じ書題の単行本が刊行され(全話収録であったかもしれない)、さらに文庫化されたもの(第一話から第九話まで)に収録されていた。また第十話から第十四話までは、「悲しき街角」に収録されている。
架空の団地見晴らしガ丘にすむ人々の人間模様を描く連作。
ひさしぶりに通読したが、あらためて涙が出そうになる。ぐっとくる。
近藤よう子氏にはこのような感性鋭い一話読み切りが多かった。
だが、八十年代の作品群は現在では入手困難なものも多い。
今回、青林工藝舎から完全版として刊行されたことは実に有り難いと思う。
現代マンガにおける大きな収穫、珠玉の短編集!
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本書を、稀代の読書家であり、マンガに造詣の深い評論家、呉智英が、その著書『現代マンガの全体像』(名著です、ぜひご一読を)で取り上げ、高く評価していたので、読むことにした。
読後の感想は、もう、「素晴らしい」の一言。私がここ数年で読んだマンガの中で傑出した面白さだった。
この作品は「見晴らしガ丘」という架空の新興住宅地を舞台に、様々な年齢・職業を持つ男女の生活の一齣を、鋭い批評精神と、繊細な感性で鮮やかに切り取り、一読、良質の純文学作品を読んだときのような気持ちにさせてくれる。
甘酸っぱく、切ない老人の恋心を描いた『初恋』、滑稽で、笑いを誘うユーモラスな『ママ…DORAEMON』『ご相談』、自意識過剰な文学青年の屈折を意地悪く、丹念に描いた『かわいいひと』など、収録作品は、どれも完成度が高く、バラエティに富んでいる。平凡な人間たちの人生に訪れる、劇的な瞬間を、短いページの中に凝縮して、余すところなく表現しきっている。こんな芸当のできる近藤の才能は、端倪すべからざるものだろう。掛け値なしに、マンガ好きなら読んで損のない作品であると、呉同様、私も評価する。巻末に収録されてある松浦理英子の解説も素晴らしい。