勝者のメンタリティー
★★★★☆
「本書は、いまサッカー監督として世界で最も大きな注目と評価を集めているジョゼ・
モウリーニョがイタリアの名門クラブ・インテルの監督に就任した1年目のシーズンを、
ニュートラルな立場から観察し描いたノンフィクションである」。
就任会見冒頭「私は“スペシャル・ワン”ではない」と滑らかなイタリア語で宣言する
ことをもってはじめられたモウリーニョの08‐09シーズンにおける奮闘ぶりを、時に
あまりに刺激的な彼の語録を中心にして、戦術論やサッカー理論を織り交ぜながら、
スピーディーに展開した一冊。
こうして彼の言行録をまとめて読むことを通じて再認させられるのは、首尾一貫して
論理的な人物が、そのあまりの愚直さゆえにかえって奇妙に映ってしまう、という現実。
確かに彼の言動はしばしばあまりに傲岸不遜で、しかし、その根底にあるものは絶えず
「スペシャルなクラブにおいては、監督はそのほんの一部分に過ぎない」とする組織への
忠誠心。然ればこそ、チームのためにベストを尽くさぬ選手に対しては厳格に接するし、
最善の成果を勝ち取るためとあらば自らの信じたシステムも棚上げする。たとえそれが
イタリアの半ば慣習であったとしても、チームのためにならないと思えば、メディアとの
友達付き合いも拒絶する。非常に常識的かつ合理的なアプローチに違いない、しかし
それを突き詰めれば、どうしたわけか、その者は異端視されてしまう。
「ニュートラルな立場」との筆者の自負とは裏腹に、あまりに分かり易すぎる勧善懲悪の
聖人伝に陥ってしまっているとの感が少なからずしないこともない、もっとも、イタリアの
メディアに比べれば、という補語さえ加えれば、十二分に首肯させられるものではあるが。
例えば戦術家としてチームに「プレー原則」を十全に浸透させられなかったことに対する
批判が若干甘いように見えるし、メディアを介したプロレス的なマッチポンプなのだから、
もう少し相手なりの事情への配慮を筆者なりに払ってやってもいいような気はする。
しかしこの男、やはり「スペシャル・ワン」に違いない。「私は自分がナンバー1だとは
思わない。……だが、これほど困難で競争の激しい世界を生き抜いていくのに、自分より
優秀な監督がいると考えることはできない。自分の仕事に取り組むときには、誰に対しても
何に対しても恐れを抱くことは許されない。リスクを冒すことを怖がってはならない」。
これぞ稀代のモティヴェーターのかくある所以。本書自体には確かにサッカーを見ない
人間には理解不能な記述もあるだろう。しかし「モウリーニョの言葉」には、そんな知識の
壁を超えてなお、引きつけられずにはいられない華がある。
初の日本人著者によるモウリーニョ本。
★★★★★
ジョゼ・モウリーニョはサッカー監督として、人間として、実に興味深い人物なのですが、これまで日本で出版されていた書籍というのは外国で書かれたものの翻訳ばかりでした。そのため、感覚や語調に違和感を覚えることがあったのは僕だけではないでしょう。本書の価値は、恐らく初の日本人著者によるモウリーニョ本ということにつきるのだと思います。
モウリーニョがインテルの監督となって1年目の2008-09シーズンに絞ったノンフィクションとなっており、自分のスタイルをイタリアに持ち込み、イタリアの現実に最適化していくまでを克明に描いています。自分のスタイルに固執しすぎることなく柔軟に現状に適応させていくあたり、プライドが高く我が強い選手たちを信賞必罰によってモチベートしていくあたりは、リーダー論としても秀逸です。また、売られたケンカは買う、というポリシーに基づいたメディアやライバルチーム監督との丁丁発止のやりとりは読んでいて実に爽快でした!
己の仕事をやり遂げるプロフェッショナルの姿
★★★★☆
モウリーニョの仕事とは何か?
それはインテルというサッカークラブを監督して試合に勝利すること。ただこの一点。
モウリーニョは自らの哲学や原則にもとづいてチームを指揮して結果が出ないとなると、現実を直視して豹変することも厭わない一面も持ちます。
それはすべて勝利のために。
この本を読むと欧州サッカーのビッグクラブで監督として結果を出し続けるモウリーニョのすごさが伝わってきます。
サッカーファンにはもちろんオススメの一冊です。
それ以上にサッカーに興味がなくても、ふつうに働く人も読んで損はないと思います。
特に会社の上司と部下、それぞれの視点で読んでみるといいかもしれません。
本当のプロの仕事とはなんたるかを思い知らされます。
いま自分がやっている仕事が"プロの仕事"と呼べるかどうか。
モウリーニョのインテル一年目
★★★★☆
イタリア在住の日本人の方の執筆です。
モウリーニョのインテルでの一年目をイタリア国内からの視点で語られています。
モウリーニョがイタリアサッカー界にもたらした衝撃(騒動?)、そして、カルチョの文化に苦悩しながらも順応していくモウリーニョ。
いろいろと日本では分からないことも書かれていて、私のようなモウリーニョ好きにはなかなか楽しめる作品でした。
モウリーニョ独特の語り口でマスコミや他の監督たちと騒動を描く一方で、4−3−3、4−4−2の長所短所をしっかり書いてあり
「カルチョの世界ではこう考えられている」
というイタリア独特の考え方や戦術もきちんと書かれているので、イタリアサッカーファンにも楽しめる本だと思います。
インテルファンにもおすすめです。
それにしても、モウリーニョの黄金期ともいうべきチェルシー時代について詳しく語られている本が洋書しかないのが残念です。