実際、中世までの記述は『年表』の域から大きく上回る成果は上がっていない。ただ、近代についての記述は一読の価値があると思う。その理由は、この部分では狭義のキリスト教史というより、広く知られた哲学者・文学者の著作の背後にあるキリスト教の姿を描くことに著者はその多くの読書と思索の蓄積をもとに、果敢なチャレンジを行っている。無論、これらを専門とする方には多くの不満が出ようが、愚生レベルの素人にはかなりの魅力がある。この点の魅力ゆえに、☆をややサービスした。
なお、著者の序文等に寄れば本書は複数の大学での長年の講義のためのノートが基礎になっているらしい。これは極めて失礼なことだが、講義の対象は「キリスト教」や「近代思想」を専攻する学生ではなさそう。実際の講義では本書の記述より、遥かに噛み砕き、多くの補足解説がなされたと想像する。「学術文庫」(といっても一般に読者への要求レベルは高くないが)では、この程度の小著でも結構なお値段になる。
それよりは、内容の大幅な増加は無理でも、一般に「選書」と呼ばれる叢書などに、「キリスト教を軸にした近代思想と近代文学」といった形での出版の方が、多くの読者を得られたかも…、と思うが、これは出版界の事情を知らない愚生の無責任な感想。妄言多謝。