「戯画」の織りなす芳醇な江戸文化
★★★★★
絵画を鑑賞する、という態度より、リラックスしてページをめくることで本書掲載の作品の本質のひとつ「軽み」の良さが理解できると思います。
元サントリー美術館主席学芸員であり、現在群馬県立大学教授の榊原悟氏の解説もまた脱力感にあふれており、堅苦しい解説とは毛色の違うものでした。
奇想の絵師の系譜に連なる伊藤若冲、長沢芦雪、曽我蕭白、歌川国芳、河鍋暁斎と近年様々な展覧会で取り上げられた絵師の風変わりな作品が数多く収められています。
冒頭の「勝絵」の「陽物競べ」や「放屁合戦絵巻」の風変わりさは現代でもあまり見当たりません。相当変わっています。
また長沢芦雪の「大仏殿炎上図」の洒脱でスピード感は類を見ません。曽我蕭白の「達磨図」の奔放さと大胆さには唖然とします。河鍋暁斎の「怪猫図」は現代の漫画につながる系譜です。歌川国芳の寄せ絵「としよりのよふな若い人だ」も一興です。有名な長沢芦雪の「虎図襖」の可愛らしさもまたご愛嬌でしょう。
歌川広重の晩年の傑作『名所江戸百景』から、「高輪うしまち」「はねたのわたし弁天の社」そして大胆な構図で有名な「深川洲崎十万坪」が取り上げられています。一流のイラストレーターとも言うべき、誇張性と大胆さ、そして斬新さを兼ね備えた作品群です。
最後に収録された伊藤若冲のユーモラスな「野菜涅槃図」、北斎漫画の「五福神図」、そしてなんとも言えない笑いを受け取る河鍋暁斎の「七福神混浴図」など珍しい作品が収められていますので、楽しみながら最後までしっかりとページを繰りました。集められた絵の面白さと風変わりさ、そして大胆さに呆れるやら驚くやら感心するやら。非常に良い出版だと思いました。