廉価でオールカラー 入門書として最適
★★★★☆
小林頼子氏はフェルメールの権威で、17世紀オランダ美術史の研究者ですから、同時代の画家の影響も本書で紹介してします。
冒頭、レンブラントの「夜警」にフェルメールの現存の32点がすっぽりと収まる、という大きさの比較からスタートしています。その作品群がいかに小さいかはこれでよく分かる工夫がされていました。
17世紀のオランダの状況から富裕な市民階級が買い手となった事情を説明し、デルフトの町と彼の生涯を史料に基づいて浮かび上がらせています。
全作品が30数点ですから、10ページの編年表で流れを俯瞰できます。それぞれに解説が付けられているのは当然として、同時代のオランダに花開いた風俗絵画の到達点にフェルメールが存在しているという絵画史の俯瞰の中で位置づけられています。
彼がファン・カウエンベルフに師事したという説は新鮮で興味を持ちました。オランダ絵画史を知る上でもためになりました。
初めてフェルメールの作品に出会う人も含めて、分かりやすく具体的な例を上げながら、彼の作品の特徴を明確にして分析しているので親しみを覚えるでしょう。もっともその時代の絵画に通じているほうが、筆者の主張の展開を深く理解できると思いますが。
本書でその素晴らしい画業と作品の良さを知ってもらうことで新たなフェルメール・ファンが生まれることでしょう。知的好奇心をくすぐる本だとも言えます。全作品をカラーで見ることが出来ますので図録としての利用も可能です。
多くの類書が発売されていますので、どれが最適かは判断が分かれますが、廉価で説明が平易ですので、入門書としては最適だと思いました。
バランスのよいフェルメール入門のスタンダード
★★★☆☆
フェルメール研究の第一人者、小林頼子氏になる、フルカラー
大判のフェルメールの生涯と作品解説。
17世紀のオランダ、デルフトの状況と、フェルメールの
年譜、全作品系譜の紹介から始まって、1作品を見開き2ページ
で紹介する、わかりやすい解説書です。フェルメール作品と
評価が確定している30作品につき、大型写真で解説。見やすいです。
フェルメール作品のサイズがいかに小さかったか、を説明する
ために、同時代の巨匠レンブラントの傑作『夜景』の中に
パズルのように、全フェルメール作品を入れ込んでわかりやすく
説明している図はユニークです。
フェルメールが好きな読者には、レファレンス資料本として、まずは
座右においておくべきムックです。
随所に出てくる、同時代画家の作品や、X線をつかった解析などを
みると、フェルメールが技巧的にいかにずば抜けていたかが鮮明に
わかると同時に、他の風俗画家の影響やインスピレーションに基づく
作品が多いことも気がつきます。