インランド・エンパイア 通常版 [DVD]
価格: ¥4,935
デイヴィッド・リンチ監督が「感じる映画」と語るように、本作が描く物語をすんなり理解しようとしても無理である。ランダムにつなぎ合わせられたような映像の洪水と、心地よさと不気味さの両方を喚起させる音楽に、ただひたすら身を任せていれば、3時間の陶酔を味わえるというわけだ。
軸となる物語は、もちろん存在する。女優のニッキーがリメイク映画の撮影をしているうち、演じる役と同様に共演者と不倫関係に陥っていく。映画とプライベートが交錯するだけなら、よくあるパターン。しかし本作では、かつて出演者が殺された未完成の映画(これがリメイクのオリジナル)、何かの映像を泣きながら見つめる女性のドラマ、さらにウサギの“かぶりもの”を着た家族の映像が混沌と交わっていく。クライマックスで、それぞれがリンクする瞬間、観る人によってはある結末を自身で納得するが、さらなる迷宮にさまよう人もいるだろう。
女優、映画内の役などニッキーのさまざまな側面をローラ・ダーンが体当たりで演じ、ホームレス役の裕木奈江が短い出番ながら強いインパクトを残す。しかしキャストの存在感も、作品の不可解な世界に、いつしか渦のように吸い込まれていくのだった…。(斉藤博昭)