ベンチマーク的作品
★★★★★
「なぜ日本は戦争をはじめたのか」、「戦争のほかに選択肢はなかったのか」とい
う問いに、真っ向から立ち向かった秀逸の作品。この本の感動的なところは、その膨
大なリサーチだけでなく、上下巻を通じてぶれることのない焦点と、分析の鋭さであ
る。
三国同盟離脱のチャンスや、ルーズベルトの仏印中立化案など、日米開戦を回避でき
たかもしれないターニングポイントを含む歴史が、飾らない、いわばハードボイルド
と言っても良い、無駄のない文体で語られていく。さらっと一読すると、良質のド
キュメンタリーを観るような印象だが、しっかりと読み込むと、戦争責任や、アメリ
カ側の対応など、著者は、かなり踏み込んでテーマ別に考察していることがわかる。
過去を語る。そして語るだけでなく、うまく語る。そしてうまく語るだけでなく、分
析し、読者を説得する。歴史家とは、本来こうあってしかるべきなのではないのだろ
うか。日米開戦関係の必読書だと考える。私自身を含め、自国の歴史、それも、自国
が始めた戦争の歴史を知らなさ過ぎる日本人には、このような本がもっと、もっと必要
である。