奄美旅行者必読
★★★★★
同じ版元から出ている蔵満逸司さんの「奄美まるごと小百科」の中では、奄美の本の中から一冊選ぶとしたらこの本と書かれている。
文章も分かりやすいし、気軽に最後まで読めるので、最初は大げさなんではないのと思っていたが、これがジワジワ効いてくる。実際に奄美を旅行して、気になったことを調べようとすると、たいがいはこの本に書いてあったことに気づいたりする。
1997年に初版が出て、版も重ねている。おそらく奄美に関心を持つ人間の間では、蔵満氏の言うように定番の本として評価が定着しているのだと思うが、ネット検索をかけても、本書はあまり引っかからない。自分で実際に読んで良書を探すと言う作業はまだまだ必要なのだと強く感じる。
各項目の掘り下げも必要にして十分。著者には別に奄美に関する書評集もあるので、併せて読んで頂きたい。
内容は以下のとおり。ひとつでも興味を惹かれた話題があれば、購入して損はないと思う。私は第四章の島尾敏雄と田中一村の項だけで元が取れたと思った。
第一章ノロとユタ/第二章薩摩と琉球/第三章島唄と新民謡/第四章島尾敏雄と田中一村/第五章自然と開発/第六章ヤスとトク/第七章紬とサトウキビ/第八章浜降れと八月踊り/第九章鶏飯と山羊汁/第十章釣りと飲み方
メジャーデビュー前の元ちとせの記述あり
★★★★☆
94年、奄美大島に朝日新聞記者として転勤した著者が書いた奄美の現状エッセイ。「はじめに」に「ヤマトンチュの目から見た奄美のガイドを書いてみたい」とある。新聞記者経験者が書いた本は独特の言い回しや人のことは書くが自分のことに触れたがらないなど経験的におもしろくないが、これは合格。「第二章 薩摩と琉球」で「那覇世」という時代認識があったことを初めて知った。沖縄には「大和世」「アメリカ世」と統治された経験を言い表す言葉があって、いじめた方は覚えてないがいじめられた方は末代まで覚えているというエコエコアザラクこのうらみはらさでおくべきか的統治されました単語というのは残っている。それが奄美にもあったとは、あまり悪い意味で使われているとは限らないらしいけど、浅学でした。西郷隆盛・田中一村の奄美での生活、デビュー前の元ちとせ、選挙賭博まである熱い選挙戦、と興味深い記述は多い。もっともヤマトンチュ的考察が生きているなあ、と感心させられた一文は、離島で年中行事芸能が熱心に行われていることに対して「寂寥をまぎらわそうとした人々の必死の努力ではないか」という指摘はちょっとウチアタイ(自嘲的納得)。ウチナーンチュ(沖縄人)必読。離島好き必読。奄美の若者も読んだ方がいいかも。