戦争論
★★★★☆
クラウゼヴィッツは、生前は決して名高き将軍ではなかったが、卓越した理論家ではありました。
軍人としての彼は凡将に過ぎなかったが、ナポレオンの戦争をその目で見て研究し論理的に構築する事が出来た。
「戦争は外交交渉の代わりに「他の手段」、つまり武力が行使されているのであり、それは政治的交渉の一つの手段にすぎないのである。」
彼が戦争論で説いた有名な一節。この言葉は一見すれば冷酷なようにも聞こえますが、私は極めて理性的な言葉だと考えています。
なぜなら、この言葉が守られるなら戦争は感情ではなく、政治の手段として用いる事でコントロールしえるものだからです。
感情的に戦争反対と叫ぶ人は、結局のところ、ベクトルがちょっと変わればすぐに戦争万歳と叫ぶようになります。
情緒的な反戦論も情緒的な抗戦論と結局のところ、右回りか左回りかの違いであり本質的には同じものだから、そのときの雰囲気次第ですぐに変化するものです。
それよりも、もっと冷静に判断を下せることが大事でしょう。
湾岸戦争では当時のブッシュ大統領は、これをわきまえていたから戦線の拡大を望まず、クウェートからイラク軍を追い払うだけで戦争を終わらせた。
しかし十年余り経て、彼の息子のブッシュ大統領は、これをわきまえる事が出来ず。感情的に突っ走ってしまったから、戦線を拡大し泥沼に入り込む事になった。
戦争を外交の手段と位置づける事は、人の良識を過度に信じる人たちには非道な言葉に聞こえても、実際は極めて良識ある意見だと私は信じています。
クラウゼヴィッツの死後、彼の研究資料が、彼の未亡人から彼の知人たちにゆだねられ、一冊の本として出版された。
それから180年近く経ちますが、いまでも世界中の士官学校で教科書として用いられ。
わが国の防衛大学校でも学生たちが必ずそれを教わります。
さらに戦争論は、軍事の枠に限らず、国際政治学の中でも必ず学びます。
大量破壊兵器が用いられ、さらにミサイルや航空機の発達で、戦場と後方の区別が失われた現在の戦争では彼の論理は100%通用するわけではないでしょうが
しかしその大枠は現在でも大切な事であり、外交と軍事を理解する上で必要な知識でしょう。
現在お金出して読む必要はなし
★★☆☆☆
三流の物書きや軍人、経営者から、現在も、古典中の古典だの、ビジネス戦略のバイブルだの、見当違いの絶賛が付くが、評価してるやつが阿呆をさらけ出してるだけ。同じ中公文庫のクレフェルト『補給戦』のほうがはるかに面白い。直接の指摘はないが、旧日本軍の発想の狭さや、現代社会での大手小売の展開、全国物流運送業の配達網など、現在の日本社会をかたどってる現実的思考の原型が見透かせるので。『戦争論』については、当時の西欧人社会での物理的闘争を、ヘーゲルによって観念的に解釈したという以上の思想的意味付け以上は、全く持たせようがない。人文科学の論者が、あまりこの本を持ち上げないのは、論者に体力や現実認識がないためでなく、この本が三流だからだ。こんな本を有難がってると、はるか以前のローマの権力機構も、近現代の植民地戦争の構造も、確実に読み違える。当然に現在の社会もだ。物理的に軍事知識を持ちたいなら、米軍がマニュアル出してる。歴史的文脈を全く無視した誤読は当然だが、ハウツー本扱いも著者に失礼だし、絶賛してる人間の世界観の単純さと、安易にこの本が現実認識の手引きになる、と錯誤できる無責任さには痛ましさも禁じえない。よほど世間の役に立ってない、お仕事しかしてないのでは。
歴史的著作物のひとつ
★★★★★
「戦争全体は人間の弱点を前提とし、この弱点に目をつける」。「正しい方針を立てる人のみが奇襲できる」。まるでグリン・スパン元FRB議長の演説のように難解で含蓄のある表現が多いのは事実。誰でも読み進められるような本ではない。ただし、説明は冷徹なくらい論理的で、それゆえ回りくどく長くなっているだけである。よって、その点に慣れてばくれば、むしろわかりやすくさえ感じる。
ただ、古くから世界の軍関係者に愛読されてきた名著であるものの、大量破壊兵器やハイテク兵器が幅を利かせる時代の常識からすると、率直に述べて、もう古い。
一方、「合理的目的が附加されれば大胆さは容易に発揮される」というような指摘は戦争だけに限ったものではなく、むしろビジネスマンにとって参考になる部分が多いかもしれない。実際、「上級軍人に必要な知識は、特殊な才能による考察、つまり研究と熟慮によってのみ獲得することができる」「批判とは理論的真理を実際の事件に応用すること」というような点や、あるいは、戦略と戦術の定義と位置づけと意義などは、けして軍事に限ったことではない。
簡単な本ではないが、読み解きながら時々姿勢を正したくなるような著作である。
戦争の考え方
★★★★☆
クラウゼヴィッツは戦争を客観的に捉えており、政治的な解決手段のひとつとして
考えないといけないという視点は国によっては今の世の中でも当てはまるところもある。
ただ、戦争自体の悲劇を考えると他の平和的な手段も考え出す必要はあるが、戦争について
思いを巡らせるには良書であると思う。
国民戦争考察の古典
★★★★★
断言します、難解です。しかも未完です。にも拘らず、本書は高い評価を維持しています。というのは、歴史的に見て長期間国民戦争という枠組みに変化が無かったからです。内容は戦争行為を抽象化し演繹することによって得た原理と、ナポレオン戦争を分析し帰納することによって得た法則を対比させ、結論を導き出していくという方法で戦争全般の考察が行われています。
もっとも、クラウゼヴィッツが生きた時代の所為でもあるのでしょうが、問題点が無い訳ではありません。例を挙げると、欺瞞の有効性・兵站の重要性・科学技術の効果などを軽視している点でしょうか。この3点は現代戦に於いては、死活的な重要性を持っています。その辺は脳内で補完してください。