本論は1838年、ジョミニ59歳のときに書かれたものであり、ジョミニ兵学の総決算ともいうべきものである。ジョミニの語る必勝理論は18世紀のプロイセン・フリードリヒ大王の戦史を根拠としていたことは本論の各所に表されており、ナポレオンの幕僚だった当事にはその理論をそのまま提言したとされている。しかし、本論を書いた19世紀は、17・18世紀とはまったく異なる時代であった。
その一つはフランス革命とそれに伴う大戦争によって、君主の傭兵による戦争から民衆自身の軍隊による戦争に代わっていったこと、もう一つが銃器の進歩によりそれを取り扱うのに特別の技能も長期の訓練も必要なくなったことである。しかしジョミニは、いつの時代であれ戦勝を得るための基礎的原理は必ず実在していると述べ、学理を研究し、システムを打ち立て、天才将軍には及ばないまでも、これを補充する次期将軍以下を養成すべきとしており、その学理研究のために本書は著されたのである。
ちなみに、本書巻末に訳者による長文の解説があるので、この時代の西洋史、戦史等を熟知していない人には、この部分を先に読むことをお薦めしたい。時代背景や人間関係がすっきりと理解でき、ジョミニの理論解釈に非常に役立つからである。(杉本治人)